マーシャル氏は仕事ができるエグゼクティブが持つ悪癖を20に分類しており、その中で最も多くのエグゼクティブに見られ、しかも最もタチが悪いのが「極度の負けず嫌い」であると指摘している。20の悪癖については拙著『世界基準-8つの動き』(ぜんにちパブリッシング、細川馨氏と共著)をお読みいただきたいが、エグゼクティブは多くの場合、極度の負けず嫌いだからこそエグゼクティブになれたのであり、そうであるがゆえに他者からの指摘に耳を傾けたがらないのである。

しかし、自身が持つ頑固な悪癖に気づき、絶えざる行動変革をしていかない限り、どんなに能力が高いエグゼクティブでもさらに高いレベルに上がっていくことはできないのである。

360度サーベイの結果を受け取り変えるべき悪癖をコーチと共有したら、コーチングは次のステップに進む。関係者全員に悪癖について謝罪をし、行動変革することを宣言するのである。

この2つのステップは、仕事のできるエグゼクティブにとって極めてハードルの高い課題である。部下の前で自分の欠点を認め、それを直すと誓うことは、自ら煮え湯を飲むような行為でありプライドの高いエグゼクティブほどやりたがらない。しかし、早い段階でこの2つのステップをクリアできた人ほど、行動変革のスピードが速いのだ。ここさえクリアしてしまえば、残りの4つは行動変革を習慣化するためのハウツーだから、コーチングは7割方成功したようなものである。

では、謝罪と公言をクリアできる人とできない人の違いはどこにあるかといえば、それは、覚悟の深さにある。本気で変わろうと思っている人ならばクリアできるが、会社からコーチングを受けろと命じられて、「なぜ自分が受けなくてはならないのか?」と半信半疑の気持ちでいる程度の人は、なかなかクリアすることができない。

後者は、会社がなぜそれなりの費用をかけてエグゼクティブにコーチングを受けさせるかを理解していない場合が多い。問題があるから受けさせるのではなく、期待しているからこそ受けさせるのである。