自分の欠点と向き合うことで、高い成果を得る
以下、私のクライアントの中から2人の方に了解を得て、エグゼクティブ・コーチングの実例をご紹介したい。まず、最初のクライアントはフランス系医薬品会社・ガルデルマの日本法人責任者(実質的な日本支社長)を務める藤井光子さんである。
ガルデルマ社は昨年、今後10年で事業規模を7倍に拡大するという長期計画を打ち出すと同時に、グローバルに社員の意識調査を行っている。日本支社の結果は、「社員の意欲は極めて高いものの、多くの社員が成長計画に巻き込まれていないと感じている」という厳しいものであった。藤井さんが言う。
「私は人をぐいぐい引っ張っていくタイプのリーダーで、何でも自分でやってしまう。だから部下を活かし切れていないのではないかと思いました」
藤井さんは悩んだあげく、自費で私のエグゼクティブ・コーチングを受けることに決め、その旨を社内で公言した。会社から命じられたのではなく、自ら進んで受けようというのだから“覚悟の深さ”は十分である。
お会いしてみると、バイリンガルの藤井さんは、極めて頭の回転が速い人であることがわかった。英語並みのスピードで日本語を話し、時折、日本語の中に英単語が交ざる。話を次々に展開していくため、話題がどんどん変わっていく。
360度サーベイをやってみると案の定、藤井さんは温かみのある素晴らしい人間性の持ち主だが、いかんせん話し方についていけない部分があるという結果が出た。つまり、リーダーとしてのあり方以前に、「話し方」というテクニカルな部分で問題を抱えていることがわかったのである。
そこで藤井さん自ら、「ゆっくり話す」「ひとつのテーマで話を完結させる」「メッセージをシンプルにする」「話し終わったら5秒間のポーズ(沈黙)を入れる」といった具体的な行動変革の目標を立て、それらについて毎日、5段階で自己評価することを約束したのである。