「ハイブリッド開発のためにバッテリーやモーターに投資をするといっても、中規模メーカーのマツダではスケールメリットが出にくいからコスト高になってしまう。だったら、ハイブリッド技術は上位メーカーが普及させて安価になってからそれを購入すればよい」(人見氏)という現実的な判断もたしかにあった。だが、決定的だったのは、人見氏が率いる先行開発部隊の存在である。
「数%の改善でいいなら商品開発部門の出番です。しかし何十%となると、基本から見直さなくてはいけない。だから、先行開発に声がかかったということですよ」
先行開発部はすでに超低燃費エンジンの試作を重ねていた。当時のデミオは23キロ/リットルを実現していた。30%向上するとしたら30キロ/リットルだ。「できるか?」と問いかける上層部に、パワートレイン先行開発部長だった人見氏は躊躇なく答えた。
「できるよ」
タイムスケジュールとその時点の達成水準を勘案し、目標達成を瞬時に「イメージできた」からだ。
こう書くと実にクールで、機械のような人物と思えるかもしれない。だが、生身の人見氏は「ハイブリッドなにするものぞ!」の強烈な反骨心でスカイアクティブGの開発を進めてきた。
たとえば、こんな話をする。ハイブリッド車は量産化が進んだとはいえ、まだまだ高価で、燃費がよくても差額分を回収するのは至難の業だ。それなのに「低燃費」「先進的」というイメージが先行し、消費者の人気を集めている。
「うちの嫁さんまで『マツダはハイブリッド出さないの?』というんですよ。いくら説明しても聞く耳を持たない(笑)。でも、ヨーロッパ人ならもっと合理的です。また、日本でも絶対に(低燃費のガソリン車を選ぶほうが合理的だと)気がついてくれる人がいるはずだと思っていましたね」
クールなだけではない。熱い思いに突き動かされ、これまでにない新しいものをつくり出し続けているのである。
人見光夫
1954年5月、岡山県生まれ。県立岡山朝日高校、東京大学工学部航空工学科卒。大学院修了後の79年、マツダに入社。一貫してガソリンエンジン関係の「先行開発」に従事する。2001年パワートレイン先行開発部長、07年パワートレイン開発本部副本部長、10年パワートレイン開発本部長、11年4月から現職。