自分にとっての42度を早く知ること

さて、40代になると社会的地位も所得もある程度まで上がります。仕事でも家庭でも、より大きな責任を負うことになる。有限な時間のなかで、ただ頑張るのではなく、賢い選択をするようにと心がけました。ずる賢くではなく賢明な選択です。中間管理職だとしたら、部下に対して何を伝えるべきか、上司には何を伝えるのか、腹をくくって自分で選択する必要があります。

私の場合、先ほどのように「家庭51%」と決めていました。それが決まっていれば、価値観にのっとって素早い決断ができるようになります。さらに、決断力を身につけるトレーニングにと、たとえばレストランで注文をするときのような小さなことでも、メニューを見てさっと決めるようにもしていました。40代までが人生の種まきの時期といえるかもしれません。

50歳からは、妻と一緒に旅行をしたり、おいしいものを食べたり、絵画を観に出かけたり、ゴルフをやったり、ボランティアを行ったりと、自分の心が豊かになるような活動を始め、60代を迎えたいまは、健康であることが重要だと思えるようになっています。

どんな人生を送ることが自分にとって幸せなのか。簡単なようで実はこれがとても難しい。経済的な豊かさを得ることで満足感を得ることはできても、人間には欲があるので次第に「まだ足りない、まだ足りない」と拝金的になる可能性もある。周りを見ると、年収5億円でも幸福感を味わえていない人は大勢います。おそらく物欲だけを満たしても、幸福な状態には到達できないでしょう。たとえ企業のトップに上りつめ、仕事で成功したとしても、その一方でストレスを過多に抱えていれば幸福とはいえません。

重要なのは足るを知ることではないでしょうか。どの状態になれば満足するのかを自分で、あるいは夫婦で確認しておくとよいでしょう。

さらに、自分にとって心地のよい温度、お風呂でいえば42度の感覚をなるべく早く知ることだと思います。50度ではやけどをするし、30度では風邪をひいてしまう。じんわりと心が温まる絶妙な環境を、自分自身で選択しながらつくり上げていくことが、幸福な人生を送ることにつながるのではないでしょうか。

国際ジャーナリスト 蟹瀬誠一 
1950年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。海外通信社記者、米「TIME」誌特派員などを経て、TBS「報道特集」キャスターとしてテレビ報道界に転身する。2004年、明治大学文学部教授に08年、同大学国際日本学部長就任。妻の令子さんは「レナ・ジャポン・インスティチュート」社長。
(構成=堀 朋子 撮影=若杉憲司)
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