時給アップを素直に喜べない状況

「106万円の壁」とは、年収106万円以上のパートタイマーに対して社会保険加入を義務付けるもので、昨年10月から従業員が101人以上の会社が対象となりました※1。2024年10月からは従業員51人以上の会社が対象となりますので、その影響は広く及ぶことになりそうです。

新たな壁の登場に対抗して、労働時間の短縮によって社会保険加入を回避しようとする動きがあります。これまでと同じ働き方をすると、社会保険料負担が発生し、企業側からすると負担額が増え、労働者にとっては手取りの収入が減ってしまうためです。

最近では、パートタイマーやアルバイトの時給を7%程度引き上げる動きが相次ぎ、揺らぎにさらなる拍車がかかっています。時給が上がると、労働時間が変わらなくても壁を越えてしまう可能性があり、働く時間を調整する人が出てくるからです。

一方、社会保険加入は必ずしもデメリットではなく、メリットもあるとよく言われます。厚生年金加入によって将来の年金額が増えるとか、自分自身が被保険者となって健康保険に加入することで、傷病手当金や出産手当金の支給対象となるなど、保障が手厚くなるといったことです。

しかし、「税金や社会保険料を払うのは損」のインパクトは強烈です。自分の場合、手取り額がどのくらい減って、そのかわりどのくらい年金が増えるのかがイメージできないと、判断のしようはありません。そうなると「損はしたくない」という気持ちが勝り、時間調整に走るのも無理からぬことです。

※1 所定労働時間が週20時間以上/1カ月の賃金が8.8万円(年収約106万円)以上/勤務期間が2カ月を超える見込みあり/勤務先の従業員が101人以上/学生は対象外

所得税負担が発生する「103万円の壁」

本題に入る前に、「壁」と言われるものが何なのか、整理をしておきたいと思います。なぜなら、「壁」がどんなものかを知ることなく、「損」と思い込んでいる人が多いからです。なお、今回取り上げるのは夫婦ともに給与所得者で、便宜上、夫が主たる稼ぎ手と設定しています。

壁には税金の壁と社会保険料の壁があります。「103万円の壁」とは、妻に所得税負担が発生するポイントのことです。妻のパート収入が103万円を超えると超えた金額に対して所得税がかかります。実は、年収100万円前後から住民税もかかり始めるのですが、年に数千円程度なので、手取りに大きな影響はありません。

ちなみに、アルバイトに精を出している学生が、親から「絶対に103万円は超えるな」とくぎを刺されることがあります。親は子どもを扶養親族にすることによって所得控除が受けられ、税金が安くなる(年末調整で戻ってくる)のですが、子どもの収入が103万円を超えると扶養親族から外れるためです。