「なりたくない。やりたくない」に訴えるものばかり

溢れる健康情報の中から、人々は「次はこれ。その次はこれ」と選択して、いや、“選択させられて”自らの生活に取り入れていく。

健康法の提供者たちは、じつに巧妙だ。彼らのアプローチはこれに尽きる。

「なりたくない。やりたくない」

これは一体どういうことだろう?

英語で健康を表す「health(ヘルス)」の対義語は「illness(イルネス)」。「病気」という意味だ。

health(健康) illness(病気)

誰しも病気に「なりたくない」。多くの人は健康でいたいというより、病気になりたくないのだ。他にも「なりたくないもの」はたくさんある。

老いたくない。
太りたくない。
シワが増えたくない。
禿げたくない。
ボケたくない。
嫌われたくない。
恥をかきたくない。

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ビジネスの世界では「コンプレックスが商売になる」とよく言われる通り、人が「なりたくない」「受け入れたくない」ものをテーマにして、その解決法を提案していく手法がよくとられる。

なかでも「病気になりたくない」は人類最大の願いだ。受け入れたくないもの、つまりウェルカムではない「アンウェルカム」の代表こそがillnessなのだ。

刺激的な方法で短期的な効果を求めていく

それらアンウェルカムなものを回避するための解決法についても、健康法の提供者たちは巧みに提案してくる。

「健康」とは本来、安定的に、長期的に享受したいものであるはずだが、「健康法」となると人々は途端に別の選択をするようになる。その選択には、主に2種類ある。

ひとつは「刺激的」な選択。人はときとして「水だけの数十日間断食」のような過激な手段を選んでしまうことがある。病気になりたくない、これ以上悪化させたくない、という恐怖感によって、それまで経験したことのない過度な方法論で困難を打開しようとするのだ。

多くの人が挫折する方法だからこそ、自分がそれをやり切れば良い結果が待っているに違いない。本当は「やりたくない」けれど、その困難に打ち勝つことに意味がある。

こう考えて刺激的な方法を選び、短期的な効果を求めていく。

こうなると、周囲の人の声は耳に入らない。どんなに家族が止めようと、我が道を進む。それによって短期的な効果をもたらすケースはあるが、大抵はリバウンドや副作用が起きるし、かえって健康を害するという長期的なリスクを抱えることもある。

じつは、サービスを提供する側はこれらの人間心理を熟知している。目的を達成するまでにあえて高いハードルを設けることで、目的達成に意欲的な一部の人々を作りあげるのだ。心理学で「ロミオとジュリエット効果」などと呼ばれるものだ。