牛乳でおなかが痛くなるのは「牛糖不耐症」

『なぜ、「おなかをすかせる」と病気にならないのか?』石原結實著(プレジデント社)

牛乳200mlには、タンパク質、脂肪ともに約6g含まれている。ビタミンAのほかB1、B2、Cが、ミネラルは鉄、マグネシウム、マンガン、リンをはじめカルシウムなども豊富に含まれている。この栄養価ゆえに、成長期の子供や病人には欠かせない完全栄養食品と考えられているし、また一般人の栄養補給にも恰好の飲み物とされてきた。

生まれてきた仔牛を短期間に驚くほど成長させる牛乳は、高栄養食品に違いない。しかし、低栄養時代ならいざ知らず、摂取カロリー制限や体重減少指導がされるほどの飽食の現代においては、やはり疑問が残る。

肥満、糖尿病、痛風、脂肪肝などは明らかに「栄養過剰病」である。それ以外でも、脳血栓、心筋梗塞、肺ガン、大腸ガン、乳ガンなど欧米型の病気は「栄養過剰病」の一面をもっている。こうした事実を考えあわせると、牛乳が高栄養食品だからイコール健康食品だと「断じる」のは、早計に過ぎる気がする。

牛乳を飲むと、腹が張り腹痛と腹鳴を伴う下痢をする人が少なくない。この症状は「乳糖不耐症」と呼ばれ、牛乳の中の乳糖を消化するラクターゼという酵素が小腸内に不足しているために起きる。ヨーロッパ人はこのラクターゼを終生もち続けるが、日本人をはじめアジア人は、離乳期をすぎるとラクターゼが消失し乳糖を消化できなくなる。ちなみに肉を主食とするイヌイットも、同じような性質をもっている。

このことは、何万年もの間、狩猟と牧畜で暮らしてきた先祖をもつ欧米人と、農耕を生業としてきたアジア人の歴史の違いが、それぞれの体の中に刻印されている証拠である。乳糖を大量に与えられて完全に消化できる日本人は、20%くらいしかいないとされる。こうした事実から、「牛乳を飲んでも日本人にとっては何の栄養にもならない」と暴言を吐いた学者さえいたほどだ。