高血圧は塩のせいなのか?
「塩分は高血圧や脳卒中の元凶である」「心臓病には、塩分の摂取を控えるべき」「糖尿病の人は、減塩食にすべきだ」……。こうした「塩悪玉説」が唱えられるようになって久しい。
1950年代、日本に来た米国のダール博士が、鹿児島から青森までを調査した。当時、鹿児島の人たちの平均塩分摂取量は14g/日で高血圧の発症率が約20%だった。北に行くに従って、塩分の摂取量が増加するとともに高血圧も増加し、青森の人たちの塩分摂取量が約28g/日、高血圧の発症率が約40%にも達していることがわかった。そのため、「塩分=高血圧の元凶」と結論づけられたのである。
この調査結果を受けて、1960年ごろより東北地方を中心に減塩運動が始まり、やがてそれが全国に波及していく。おかげで減塩醤油、減塩味噌、減塩梅干しなどが増えていった。それで、高血圧が減ったかというと、減るどころかむしろ増加傾向にある。いまや高血圧患者は5000万人もいるという。
東北など寒冷な地域でくらす人たちが、大量の塩分をとる習慣があったのは、寒さを防ぐために必要だったからである。塩分は体を温める働きをもっているのだ。現在のように暖房が十分に発達していなかった厳寒の冬を乗り切るためには、塩分を多めにとって体を温める必要があった。もし当時、塩分を控えていたら、高血圧や脳卒中を発症するずっと前に、冷えから起きる肺炎や結核、リウマチ、うつ病などにかかって生命を落とす原因になっていたかもしれない。
また、寒い地方の人々の高血圧の原因としては、冬の間に屋外での運動ができなかったこと、新鮮な野菜の摂取が不足していたこと、厳しい寒さそのものが血管を収縮させて血圧を上昇させていたこと等も考えられる。塩のみを高血圧の元凶とするのは間違いだろう。
塩分は体に悪いのではなく、要は出すことなのだ。塩分は十分にとって体内で利用し、汗や尿で体の外へ排泄すればよいのである。というのは、塩分(特に化学的な合成塩の食塩ではなく、約100種類のミネラルを含む自然塩)には、新陳代謝を促して体温を上げたり、体内の有害物を解毒したりする作用があるからである。
スポーツや入浴、サウナで十分に発汗する、あるいはニンジン・リンゴジュースや生姜入りの紅茶など利尿を促進する飲み物を飲んでいるという前提で、きちんと塩をとることは、健康を促進することはあっても、健康に害になることはない。
※本連載は『なぜ、「おなかをすかせる」と病気にならないのか?』(石原結實 著)からの抜粋です。
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