免疫力が落ちれば風邪をひく。では、免疫力を高く保つにはどうしたらいいか。まずは精神的ストレスを避けることと、朝起きて夜眠る規則正しい生活を送ることだといわれてきた。それに加え、最近は「ヨーグルト(乳酸菌)を食べること」が効果的だという研究成果も明らかになった。現在の免疫学の常識とは?

斯界の権威である奥村康・順天堂大学医学部特任教授に解説してもらった。

乳酸菌を食べると免疫力が上がる

<strong>奥村 康●順天堂大学医学部特任教授(免疫学講座)・アトピー疾患研究センター長</strong>。1942年生まれ。千葉大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。スタンフォード大学医学部留学、東京大学医学部講師を経て、84年より順天堂大学医学部免疫学講座教授。医学博士。2000年順天堂大学医学部長。サプレッサーT細胞の発見者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞、ISI引用最高栄誉賞、日本医師会医学賞などを受賞。主な著書に『腸の免疫を上げると健康になる』『免疫のはなし』『免疫』『「不良」長寿のすすめ』など。
奥村 康●順天堂大学医学部特任教授(免疫学講座)・アトピー疾患研究センター長。1942年生まれ。千葉大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。スタンフォード大学医学部留学、東京大学医学部講師を経て、84年より順天堂大学医学部免疫学講座教授。医学博士。2000年順天堂大学医学部長。サプレッサーT細胞の発見者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞、ISI引用最高栄誉賞、日本医師会医学賞などを受賞。主な著書に『腸の免疫を上げると健康になる』『免疫のはなし』『免疫』『「不良」長寿のすすめ』など。
――佐賀県・有田町の小中学生約1900人が11年春までの半年間にわたり1073R-1乳酸菌を使用したヨーグルトを食べ続けたおかげで、周囲の市町村と比較してインフルエンザの感染率がきわめて低かったという調査結果がまとまりました(実施主体は有田町、有田共立病院、国立循環器病研究センター)。奥村先生はこれをどう評価しますか。

【奥村】自治体や学校などの公的機関の参加を得て、これほど大規模に調査研究を行ったということに意義があります。ワクチンの評価については過去に例がありますが、外から摂取する食品のようなものが感染症予防にどういう効果を持つかということについては、大規模な研究はありませんでした。国内外を通じて非常に斬新な研究だと思います。

――期間中の小学生のインフルエンザ感染率は、佐賀県(有田町を除く)が4.37%であるのに対し有田町は0.64%、中学生は2.57%に対してわずか0.31%でした。乳酸菌が免疫力を高めたということですね。

【奥村】そうです。実は免疫には「軍隊」に当たるリンパ球と、「警察」に当たるリンパ球の2つの種類があります。軍隊型のリンパ球は、ウイルス感染にきわめて強い抵抗力を発揮しますが、抗原抗体反応を経てから対応するので効果が出るまで時間がかかります。一方の警察型は、ナチュラルキラー(NK)細胞と呼ばれ、ウイルス感染した細胞や癌化した細胞をいち早く見つけて攻撃します。

私たちの体は毎日1兆個の細胞を新たに生み出していますが、そのうち5000個ほどは不良化、すなわち癌化します。これを成長する前に叩いているのが警察型のNK細胞なのです。NK細胞はつねに血液中をパトロールしていると考えればいいでしょう。リンパ球のうち2~3割を占めているだけですが、人間の免疫力を支えるたいへん大切な存在です。

ただし、NK細胞はいくつかのきっかけで活力を失うことがあります。加齢と生活リズムの乱れと精神的ストレスです。65歳くらいを過ぎると、この「おまわりさん(NK細胞)」は居眠りをするので、その間にたとえば癌化した細胞が増殖してしまい、目覚めたときには警察では手に負えないくらいの大きさに育ってしまう。加齢とともに癌の発症が増えるというのはこの理由によります。

また、NK細胞は朝になると活性化し、夜には働きが弱まります。夜おそくまで仕事をしていたり、お酒を飲んだりしていると、高齢者でなくても免疫力が低下します。

そしてストレスが加わると、高校生くらいの若者でもインフルエンザや風邪にかかりやすくなります。入試や定期試験の前になると風邪をひきやすくなると感じたことはありませんか? それは試験のストレスにより、NK細胞の活性が低下するからです。

したがって、規則正しい生活をし、ストレスがかからないように心がければ免疫力を高く保つことができます。それに加えて、従来から乳酸菌などを摂取することがNK細胞の活性化には有効だということが知られていました。今回の調査では、そのことが統計的にも裏付けられたということです。