苦しみのどん底だと思っても、それは本当のどん底じゃない

やみつきになれるほど準備が癖になれば、そこには「苦しみの愉悦」が生まれ、オーバーヒートしそうなほどの準備が楽しくなってくる。

古舘伊知郎『伝えるための準備学』(ひろのぶと)

ただし、オーバーヒート寸前になるまで脳をフル回転させるのは、そう簡単にできることではないかもしれない。慣れないうちは、まだ泳ぎを知らない子供のように準備の海でアップアップするし、苦しく感じることだってあるだろう。

僕の場合、特に「報道ステーション」のメインキャスターになりたての頃は、本当に苦しかった。プロレスやF1の実況でも、しばしば視聴者の厳しい声を浴びていたが、「報道ステーション」のそれはわけが違う。その都度傷つき、また、自分の言葉で人を傷つけてしまったことも数知れず。そんな中で最初の頃は「この苦しみからは永遠に抜け出せない」なんて思っていた。当然、その心持ちで向き合う準備も、苦しかった。

しかし、いつしか「本当に苦しいな」というときに、苦しみを楽しめる瞬間がポツポツと出てきたのだ。そうして、「あれ?苦しいのも悪いことだけじゃないぞ」「いっそ、この状況を楽しんでしまえ」と思えるようになった。

解剖学者の養老孟司先生にある時いただいた言葉にも、影響を受けている。

「古舘さん、たとえ苦しみのどん底だと思っても、それは本当のどん底じゃない。その証拠に、まだ下を掘れるでしょう? まだまだ掘りゃいいんです」

確かにそうだ。掘ればいいのだ。ここから抜けられない、底辺だと思うなら、まだまだ掘って掘って、掘ってやろう、と。明けない夜はない。ならばいっそ開き直って、とことん付き合ってやればいい。

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