老後の生活は年金だけで暮らしていけるのか。『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』(アスコム)を書いた社労士みなみさんは「お金について不安を感じている人は多いが、公的保険をフル活用すれば医療費や介護費の負担を大幅に減らすことができる」という――。
車椅子の介護者と高齢者の手
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老後の医療費は年平均6万円ほどで済む

年金生活で気になるのは、病気や介護にかかるお金でしょう。それでは、老後の医療費はどのくらいをイメージしておけばいいのでしょうか。

2021年度の厚生労働省の推計によると、日本人の生涯医療費の平均は、1人当たり約2815万円です。そのうち、65~99歳までの医療費は1604万円。つまり、生涯医療費の半分以上が65歳以降に使われるということです。

「そんなにかかるの?」と思った人もいるでしょうね。

65歳からこんなに医療費がかかったら、年金だけではとても暮らせそうにありません。しかし、安心してください。この数字は医療費10割負担で支払った場合の金額です。実際の自己負担割合は1~3割なので、あなたが病院の窓口などで支払う金額はもっと少なくなります。

一般的な年金受給者であれば、69歳までは3割負担、70~74歳は2割負担、75歳以上になると1割負担になります。この自己負担割合に当てはめて再計算すると次のような数字になります。

65~69歳までの5年間は、61万5000円。
70~74歳までの5年間は、41万円。
75~99歳までの25年間は、102万5000円。

合計すると、65~99歳までの医療費は約205万円になります。平均すると1年あたり6万円とちょっとです。ありがたいことに、日本の医療制度は、65歳以降の医療費をかなり低く抑えてくれているといえます。

ただし、老後も現役並みの収入を得ている人は自己負担割合が2割あるいは3割になるので、その分だけ医療費は高くなります。

1カ月で支払う医療費には上限がある

思ったよりも医療費が安くてちょっと安心ですが、さらにうれしいことに、日本の医療制度では1カ月間の医療費の上限額が設けられています。その上限額を超えたら、どんなに医療費がかかっても払わなくていいという制度です。

これを高額療養費制度といいます。この上限額は、70歳以上になると現役世代よりもっと優遇されます。

病院の窓口で高額な医療費を請求されても課税所得145万円未満(年収でいえば370万円以下)の人であれば、窓口で1万8000円、年間の上限も14万4000円です。

住民税非課税世帯の夫婦は、窓口での上限額は8000円です。対象となるのは65歳以上の年金受給者の夫婦世帯だと年金受給額211万円以下、単身世帯だと155万円以下になります。この年金の壁は地域により異なり、地方はこれよりも低くなります。