胸部X線で肺がんは見つけられる?
働き盛りの世代にとって、自覚症状がないまま進行する「がん」は命を脅かす最大のリスクだ。国は早期発見で命を守るために、年1回の「がん検診」を受けることを勧めているが、そこには思わぬ落とし穴が存在する。
毎年、職場で行われている健康診断の胸部X線検査(通称:レントゲン検査)で「異常なし」という結果が出ると、「肺がんはなかった」と安堵していないだろうか? 実は、この検査で肺がんの見逃しが頻発しているのだ。
連載「信じてはいけないがん検診・がん検査」の第1回は、健康診断の胸部X線検査をめぐる知られざる実態と、肺がんを早期発見する最適な検査方法をお伝えしたい。
ステージ1の肺がんのはずが、手術中止に
「病院で肺がんを告知された時は、愕然として頭の中が真っ白になりました。自分はどれだけ生きることができるのか、半年後はどうなっているのか……」
こう述べたのは、中堅の自動車部品メーカーに勤務する40代(当時)の男性。職場の健康診断で受けた胸部X線検査で、肺がんの疑いが指摘された。
精密検査の結果、早期の“ステージ1”と診断されて、外科手術に臨んだが、思わぬ展開が待っていた。
「がんを取りきってしまえば完治できる、と主治医から説明を受けて、安心して手術に臨みました。実際に胸を開いてみると、“胸膜播種”が見つかって、手術は中止になってしまったのです。
麻酔から目が覚めて時計を見ると、時間が全然経っていなかったので、手術はできなかったのだと分かりました。自分としては、完治できると信じていましたから、現実を突きつけられてショックでしたね」(40代男性)
“胸膜播種”とは、肺の表面を覆っている袋状の胸膜に、小さながんが転移して種を蒔いたように広がった状態を指す。事前の検査では分からないことがあり、手術の途中で胸膜播種が確認されると、その時点で中止となる。
男性は“ステージ4”の肺がんに変更されて、薬物療法が始まった。