話をさえぎってくるせっかちな上司

まず留意していただきたいのが、「話を聞く」というのは、物理的に耳を傾けていればいいというわけではないということです。

ある会社から支店の離職率が高いと相談を受け、支店長のJ氏とお会いすることになりました。J氏は体育会系の雰囲気の元気のよい方でした。

私はJ氏と話し始めて5分もしないうちに、離職率が高い理由の察しがつきました。

J氏は私が話すたびに、私が話し終えないうちに私の話をさえぎって話すのです。

こういうタイプの人は頭の回転が速い人が多く、それが故にせっかちで相手が話し終えるのを待てずに話し始めるのです。こういった話の聞き方をされると、相手は「この人は自分の気持ちを受け止めようとしてくれない」と感じます。

そこで、部下の方にJ氏の印象についてヒアリングしたところ、案の定、「ワンマンで一方的」「まともに話を聞いてくれない」「自分の気持ちをわかってくれない」「悩みがあっても相談できない」といった答えが返ってきました。

人は自分の気持ちに共感してもらえたとき、認められたと感じ、相手に心を開こうとします。逆に、共感してくれないと感じると、相手に心を開こうとはしません。心を開いていない相手には、悩みを相談しようとはしません。

そして、共感してくれないと感じる聞き方の1つが、相手の話をさえぎることです。

その後、J氏と話した際、こんな質問をしました。

「ちなみに部下の方の話って、ちゃんと聞くようにされてますか?」
「ええ、ちゃんと聞いてますよ。定期的に面談もしてますしね」

J氏は部下の話を聞けていないことに気づかないままマネジメントをし、部下は悩みをJ氏に相談できずに抱え込み、それが離職率の高さにつながっていました。

しかしJ氏は「自分は部下の話を聞いている」と思っていたわけです。

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相手のプライドを傷つけない指導を

そこで部下の方たちの名前は伏せたうえで、ヒアリング内容をJ氏にフィードバックしました。J氏は「なるほど、なるほど」と言いながらも、ショックを隠せない様子でした。

そして、「Jさんは頭の回転がかなり速い人だと思います。だからこそ会話のペースが速くなり、相手の話をさえぎってしまうので、共感が疎かになりやすい。

それだけ頭がいい人ですから、ペースを相手に合わせて、話をさえぎらず、共感しながら聞くこともできるはず。ぜひそうしてください」とお伝えしました。

こういった指導をする際は、相手のプライドを傷つけないことが重要です。プライドを傷つけてしまうと相手は心を閉ざし、言い訳するなどして言うことを聞こうとしなくなります。

そこでJ氏には、「頭の回転が速い」という点を強調し、優れた人であることを前提として、だからこそ話の聞き方も改められるはず、とお伝えしました。

その結果、J氏は私の提案を受け入れてくれました。以降、私も継続的にモニタリングすることで部下に対する関わり方が変わり、離職率も下がりました。