「安倍支持層の期待」と「米国の警戒感」のジレンマ

高市包囲網の背景には、もうひとつ見逃せない要素がある。米国が高市政権誕生を強く警戒しているのだ。

ロシアのウクライナ侵攻後、米国はロシアや中国と対抗するため、日米韓の連携をアジア外交の基軸としてきた。中国や北朝鮮に近かった文在寅政権から米国や日本に近い尹錫悦政権へ韓国の政権交代を実現させ、対米追従の岸田首相にも働きかけて、日韓の関係改善を進めてきたのである。

ところが「極右」とも言われる高市政権が誕生すれば、韓国世論が反発して日米韓の連携が揺らぐことを米国は最も恐れている。とりわけ警戒しているのは、高市氏が首相になったら靖国神社に参拝する考えを明言していることだ。

自民党議員の多くは対米関係を重視している。米国が「極右・高市政権」の誕生を懸念していることは、岸田首相以下、自民党中枢には伝わっている。それが高市包囲網を後押しする大きな要素となっている。

高市氏もそれは百も承知だ。出馬会見では尹政権を高く評価し、日米韓連携の重要性を主張して米国の警戒感を解こうとした。一方、安倍支持層を裏切らないために靖国参拝の旗は降ろせない。安倍支持層の期待をつなぎつつ、米国の警戒感を払拭しなければならないジレンマを抱えている。

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大逆転のシナリオ

以上の情勢を踏まえ、高市氏が大逆転するための条件を考察してみよう。

まずは第一回投票で上位2人に割り込み、決選投票に勝ち進まないと話は始まらない。国会議員票での苦戦は免れず、党員・党友票でトップに踊り出ることが不可欠だ。それでも決戦投票の相手が小泉氏なら、高市氏への批判を強める茂木氏(第三派閥・茂木派)や林氏(第四派閥・岸田派)が小泉支持に回るのは確実だ。

最大派閥・安倍派の中堅若手に支持を広げて国会議員票で2位につける小林鷹之陣営の多くも小泉氏に流れる公算が高く、高市氏の勝算は低い。小泉氏が党員・党友票で伸び悩んで脱落し、「石破vs.高市」の国会議員に不人気同士の決選投票に持ち込むことが高市政権誕生への大前提であろう。

石破氏との直接対決になれば、国会議員票の動向はまったく読みきれない。茂木氏や林氏は石破支持に回る可能性が高いが、最大派閥・安倍派や第二派閥・麻生派には石破アレルギーが強く、高市支持に回ることが期待できる。これは大接戦だ。

「石破vs.高市」国会議員の“不人気同士の決戦”の可能性も

鍵を握るのは、麻生氏の出方である。

今回の総裁選は、麻生氏と菅氏のキングメーカー争いだ。「本命」の小泉氏を擁立した菅氏が大きくリードし、麻生氏は劣勢である。小泉氏が圧勝して菅氏にキングメーカーの座を奪われれば、10月解散総選挙で政界引退に追い込まれるとの見方も出ている。

しかも「対抗」の石破氏は麻生氏と犬猿の仲で、菅氏に近い。これに対し、麻生氏が出馬を後押しした河野太郎氏や上川陽子外相はまったく支持が広がっておらず、小林氏も決選投票に勝ち残るのは困難だ。