小泉氏、石破氏、高市氏の三つ巴の争いのなかで、麻生氏が菅氏とのキングメーカー争いに敗れないための選択肢は高市氏しかない――。安倍支持層にはこのような期待感が高まり、麻生氏が決選投票で高市氏に乗って大逆転するというシナリオが語られている。
私は、麻生氏が「小泉政権阻止」を最優先に目指すのなら、決選投票どころか第一回投票から密かに高市氏に票を流すとみている。麻生氏は小泉氏が第一回投票で過半数を獲得するのを阻止するため、麻生派の河野氏だけではなく、上川氏や小林氏にも推薦人を貸し出して乱戦に持ち込んだ。
しかし河野氏、上川氏、小林氏が決選投票に勝ち進む可能性がほぼ消滅した以上、第一回投票からこの3氏に投じた票は死票となるだけだ。ならばこの3氏の陣営に潜り込ませた「麻生派議員」の投票を第一回投票から密かに高市氏に集結させれば、小泉氏を3位に蹴落として石破vs.高市の決選投票に持ち込む可能性が高まる。
麻生氏が“高市支持”を躊躇する2つの理由
高市氏大逆転の絶対条件は、麻生氏の支持獲得だ。
問題は、麻生氏が本気で高市氏に乗るかどうかである。麻生氏は高市氏とは疎遠だ。それでも小泉政権よりも高市政権のほうがマシと考えるかどうか。
確かに菅氏とのキングメーカー争いという意味では、高市政権が小泉政権や石破政権よりははるかにマシである。だが、麻生氏が高市氏に乗ることを躊躇するふたつの要因がある。
ひとつは米国だ。麻生氏は対米関係を最重視している。その米国が高市政権誕生を警戒している以上、麻生氏は乗りにくい。高市氏が米国の警戒感を払拭できるかどうかが大きな鍵となる。
もうひとつは麻生氏のエスタブリッシュメント志向である。麻生氏は明治の三傑である大久保利通や戦後日本の礎を築いた吉田茂を先祖に持つ政治名門一族だ。安倍氏と相性がよかったのも、由緒ある政治家系を持つ者同士の安心感があったからだった。
菅氏や二階俊博元幹事長ら叩き上げの政治家には常に警戒感を抱き、心を許すことはなかった。そして何より麻生氏は「家柄主義」である。伊藤博文の末裔である松本剛明氏(現総務相)が民主党を離党した後に麻生派に引き入れて重用していることはその証左であろう。
大逆転のカギは、麻生氏を引き込めるかどうか
麻生氏は今月84歳になった。総裁選に関与するのはこれが最後かもしれない。米国に警戒され、自民党では「外様」である叩き上げの高市氏に最終局面で本当に乗るのか。政治家4代目で首相経験者を父に持つ小泉氏のほうが乗りやすいのではないだろうか。
高市氏支持をちらつかせることで小泉氏を担ぐ菅氏を焦らせ、土壇場で菅氏との裏交渉を優位にまとめて小泉氏に乗る――そんな老獪な結末も十分にあり得ると私はみている。
叩き上げの高市氏が麻生氏を引き込めるかどうか、大逆転の鍵はここにある。