50代管理職だけでなく、勤続3年以上の若手まで

代表的なケースを見ると、ジョブ型人事制度の導入に伴い50代の管理職を対象に早期退職を募ったエネルギー大手企業があった。同社では、退職する人に追加の割増金を支払った。それにより、若手に管理職のポストを空けて組織の新陳代謝の促進を目指した。

製薬業界でも、早期退職を募る企業は増えているようだ。最近、国内の大手製薬企業は2020年に続いて希望退職を実施した。今回の募集は前回と異なり、今回は勤続年数3年以上を対象に幅広く早期退職を募った。主に、国内の営業や研究開発の部署が対象になっているという。

デジタル化に伴う対面営業の必要性の低下、新薬開発のための資金確保、専門性の高い人材獲得のポストの捻出と、これからの賃上げ原資の確保が主な狙いとみられる。

事務機器の領域でも早期退職を募る企業は多い。9月に早期退職の募集を発表した企業では、営業、保守メンテナンスなどを中心に内外で2000人規模の早期退職を募った。一定の勤続年数など、応募可能な条件が設定されている。

本気の賃上げのために大手企業が動き始めている

デジタル化に伴うペーパーレスの流れ、コロナ禍をきっかけとする在宅勤務やテレワーク増加により、複合機など事務機械の需要は盛り上がりにくい。収益性が低下した事業でコストを圧縮し、クラウド関連事業など成長期待の高い分野で、専門人材の獲得に向け早期退職を実施せざるを得なくなったとみられる。

化粧品の分野では、中国事業の不振などでコストカットの必要性が高まり、早期退職を募った企業がある。個々の企業の収益状況などに差はあるものの、傾向としては40代、50代などミドル、シニア世代を対象に早期退職を募集する企業は増加傾向にある。

その背景の一つは、人件費の固定部分を圧縮し、賃上げを行いやすい体質を実現することだろう。人口減少による人手不足もあり、わが国の企業が有用な人材を確保するためには賃上げは避けて通れない。

それに加えて、2021年の春先以降、物価が上昇した。足元でも、国内の消費者物価指数は日銀が物価安定の目標に掲げる2%を上回っている。食料、日用品など家計の生活負担は高まった。その状況下、ゆとりある暮らしを目指して、少しでも賃金の高い企業に移ろうとする人は増加傾向にある。