“メディアの切り取り”を意識した総理大臣

第2位は、小泉純一郎氏です。

囲み取材などでの話し方を通して、メディアを味方につけてきた人間といっても過言ではないでしょう。彼の演説には、独特なコミュニケーション術が組み込まれています。

郵政解散のタイミング、衆議院解散を受けての記者会見の演説は、明らかにメディアに切り抜かれることを意識した構成になっていました。

「私は本当に国民の皆さんが、この郵政民営化は必要ないのか、国民の皆さんに聞いてみたいと思います。言わば、今回の解散は郵政解散であります。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、これをはっきりと国民の皆様に問いたいと思います」
(2005年8月8日 小泉純一郎氏 衆議院解散を受けての記者会見)

読点や句点での区切りが多く、映像上で「切り取り」しやすい構成です。

また、「聞いてみたいと思います」「問いたいと思います」といった容易な言葉が並んでいます。テレビを見ている視聴者を意識して、やわらかい表現を選んでいるのです。

特徴は「比喩」と「である調」

「約四百年前、ガリレオ・ガリレイは、天動説の中で地球は動くという地動説を発表して有罪判決を受けました。そのときガリレオは、それでも地球は動くと言ったそうです」
(2005年8月8日 小泉純一郎氏 衆議院解散を受けての記者会見)

故事成語や比喩表現、偉人の言葉などの「引用」して自分のスタンスを示すのも、小泉氏がよく使ったレトリックでした。ここではガリレオ・ガリレイの言葉を引いて、「何があろうと主張を曲げない」ことを表現しています。

語尾の表現の使い分けにも特徴があります。

「総理になって、衆議院選挙においても、参議院選挙においても、この郵政民営化は自民党の公約だと言って闘ったんです。

にもかかわらず、いまだにそもそも民営化に反対だと。民間にできることは民間にと言った民主党までが公社のままがいいと言い出した。公務員じゃなければ、この大事な公共的な仕事はできないと言い出した。おかしいじゃないですか」
(2005年8月8日 小泉純一郎氏 衆議院解散を受けての記者会見)

このように、「である」調と「ですます」調が混在しているのです。

一般的に、しっかりとした場で話す場合はていねいな語尾、つまり「ですます」を使うのが普通です。小泉氏は基本的には「ですます」調で話しながらも、ところどころ、あえて「である」調を用います。

少しラフに、ぶっきらぼうに話すことで、気持ちを全面に表現しているのですが、その後はまた冷静な「ですます」口調に戻ります。これは、緩急をつけることにより単調にならず、メッセージの重要な部分を際立たせる効果があります。

小泉氏のこの手法は、感情を込めた部分と冷静な説明を巧みに使い分けることで、相手の共感を引き出しつつ、説得力のある話し方を実現しているのです。

このように、「である」調と「ですます」調の使い分けは、話し手の意図や感情を的確に伝えるための高度なテクニックといえます。