「沈黙」の表現が巧みだった
小泉氏の話し方でも最も特筆すべき点は、「惹きつける力」にあります。これは、「沈黙・間の確保」が奏功したものです。
今回の例では、
(2005年8月8日 小泉純一郎氏 衆議院解散を受けての記者会見)
という形で、約3秒の沈黙の時間を取っています。
これにより、聞き手は次にどんな話につながるのか気になり、否が応でも注目します。さらに小泉氏は、その間を取っているときにまっすぐと前を向いていました。こうした工夫で聞き手の注意をひきつけ、説得力のある話を生み出していたのです。
その後の結果は記憶にある方も多いと思いますが、郵政解散選挙では、自民党と公明党で327議席を獲得、3分の2の議席を占める結果となりました。
“絶妙なバランス”で聴衆をひきつけた総理大臣
第1位は田中角栄氏です。
1972年の街頭演説では、冒頭の1分程度だけでもたくさんの工夫が詰まっていることがわかります。
まず、ポジティブな情報とネガティブな情報の分量のバランスが絶妙です。自分たちの実績や経歴、成果などは、語りすぎても自慢のように聞こえてしまいますが、日本社会の杜撰さや課題に言及しすぎても、暗いニュースを聞くような気持ちになってしまいます。
ですから、総理大臣の演説で大切なのは、その話を聞いて日本の状態を深く知ることができるか、その人が政治に関われば未来が前に進むと期待できるかどうかということなのです。
田中氏の演説はこの目的をしっかりと達成できています。冒頭では
(1972年 田中角栄氏の街頭演説)
と話し、ポジティブな現状変化を伝えながら、まだ課題が溜まっている事実を織り交ぜつつ、未来へのビジョンを描いています。