一見の店では“話しかけられる”のを待つ
「それで、他のお客さんにも覚えてもらって、自分のホームにしていくわけですね」
「まあ焦るな。その前に、店主と仲良くなることだ」
「え? お店の人とですか?」
「そうだ。店主と仲良くなれば、そのうち常連を紹介してくれる。そこから、徐々に友達を作っていけるはずだ」
「店主とはどうやって仲良くなればいいんでしょうか? 僕、お店の人に話しかけるのが苦手なんですよね……。何か、イキったやつだと思われそうで」
「無理に話しかけなくていい。いや、むしろ一見で気安く店主に話しかけない方がいいぞ。通りすがりで飲むだけなら好きに振る舞えばいいが、常連になりたいなら“飲み屋のヒエラルキー”を理解しなければならない」
「飲み屋にヒエラルキーなんか、あるんですか?」
「そうだ。基本的に、一見客はヒエラルキーの最下層だ。そのことを自覚し、店主や常連への礼儀を守ることが大事なのさ」
「最下層ですって? 別に客だから偉いとは言いませんけど、お金を払っているのにそこまでへりくだらないといけないんですか?」
「はっ! その考え方がそもそも間違っている!」
“いくら使ってきたか”“何度通っているか”が信用になる
「……はいはい。で、どうなってるんですか? そのヒエラルキーとやらは」
「トップは言うまでもなく、店の主導権を握る店主。その次が、店を長年支えてきた常連客だ」
「それは、何が基準なんですか?」
「そのお店で“いくら使ってきたか”“何度通っているか”だ。そして、飲み屋ではそれが客の信用になる」
「結構シビアですね」
「お店にとって、しっかりお金を払ってきてくれた常連客の序列が上位になるのは当たり前だ。その仕組みを理解せず、適当に振る舞えば、生意気だと思われてしまう。例えば、店主一人で経営している小さな店で、新参者が店主を独占したらどうなる?」
「常連さんが店主と話せなくなっちゃいますね。確かに、あまりいい気持ちはしないかも……。じゃあ、初めて来た客は、どうすればいいんですか? ずっと黙っているとか?」
「そうだ。黙っていればいい」
「そんな……」
「焦って先走るのは、お前の悪いクセだぞ」
「だって、せっかく飲みに行くのに……」
「おいおい、これは遊びじゃないんだぞ。常連になりたいなら、初めは店主が話しかけてくるのを待つんだ。いい飲み屋にはいい店主がいるから、行儀良く飲んでいる一見客を放置したりはしない。『近くにお住まいなんですか?』『ここは二軒目ですか? どこで飲んでたんですか?』と、話しかけてくれるはずだ」