仕事にもツケにも「決して裏切らない」信用が大切

急にサングラスを外し、ギロリと睨みつけてくる高山。……残念ながら、意外と目がパッチリしていてあまり迫力がない。

「だからいいんだ。俺の名刺なんて、何の力もないからこそギャグになる。何ならクスっと笑ってもらった後で、破り捨ててくれたっていい。とにかく、お店に迷惑をかけない形でママにインパクトを残すことが大事なんだ」

「真の常連客への道は想像以上に険しいんですね……」

「かもしれないな。だが、その分得られるものも大きい。ちなみに、最終的にツケで飲めるくらいになれば、完全に常連として認められた証だ」

「ハードル高いですね」

「まあな。でも、ツケってのは、そいつに対する信用そのものだ。行儀よく振る舞い、プライベートをさらし、お金を落とし続けた先に『この人は私たち(お店や常連客)を決して裏切らない』という信用が得られる」

「仕事の頼み方や接待の話にもつながりますね」

「そうだ。仕事に信用はつきものだぞ」

「珍しく、まともなことを言いますね」

「俺はいつもまともだ。まあとりあえず、ツケで飲める店を作ることを目標にしてみたらどうだ? 3年かかるけどな」

「とりあえずのハードルが高すぎですよ。まず3日通いたいお店を探します」

外へ行けば、ビジネス書では得られない発見がある

それから数週間、僕はいろいろな飲み屋を渡り歩いた。

さすがにツケは難しいが、店主や常連客と気楽に会話できるお店もできた。

外で飲むと、いろいろな発見がある。

近隣の情報だけじゃない。数奇な人生、仕事の成功談や失敗談などなど。お店のスタッフさんやお客さんの話を聞くと、自分一人では見聞きできない、さまざまなことを体験できる。

ルノアールのように、周りの人の話し方も参考になる。上手な誘い方や断り方、話の盛り上げ方、どんな話題がウケないのかなど、営業のときに役に立ちそうだ。

高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)
高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)

そんなふうに飲める場所が増えるにつれ、営業マンとしての戦力が上がっていく気がする。

それに、僕のような経験が浅い若手でも、常連面できるいい感じのスナックがあると言うだけで一目置かれるのだ。

高度な営業テクニックを身につけるには、長い時間が必要だ。

でも、行きつけの飲み屋は割とすぐにできる。飲み屋通いは、営業力をアップさせる手っ取り早い手段と言えそうだ。

ビジネス書を読み込むよりも、ずっと近道かもしれない。

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