「医師の意見」はエビデンスにならない

ただし、エビデンスの有無は確認したほうがいいです。健康本の中には、「それ、医師のあなたがいいと思っているだけですよね?」という眉唾な本もたくさんあります。それを見極めなければなりません。

エビデンスには4つほどのレベルがあります。

1つ目は「知人、著名人、患者個人の発言や発信」。2つ目は「医師や専門家のデータに基づかない意見」。3つ目は「症例報告」です。そして最後が「実際に研究や試験を行った結果」となりますが、このうち、信頼に足るエビデンスといえるのは最後の一つだけです。症例も信頼できるように感じるかもしれませんが、偶然に効いた、よくなったという可能性が否定できないので、エビデンスとしての信頼性はそれほど高いといえません。そう考えると、「絶対に治る」「奇跡が起こる」などと書かれた本は内容を疑うべきです。エビデンスに基づかず、症例報告だけの可能性があるからです。

エビデンスを確認するには本の最後のほうに論文などの引用一覧があるかどうかを見るといいでしょう。また、図表や数値に引用元の記載があるかどうかチェックします。僕は引用元を検索して、信頼できるかどうかを確認しています。

一方で「名医が教える」といったタイトルの健康本も少なくありません。これもある程度は事実ではあるものの、オーバーな表現だと感じます。ある領域の専門家が専門分野について書いているのであれば、その狭い領域においては、それなりに造詣の深い内容が書かれている確率は高いと思います。ほかの本では得られない情報が得られる可能性があるのです。その意味では「名医」の知見といえるでしょう。ただこの場合も丸ごと信じるのではなく、本当だろうかと半分は疑問を持ちながら、自分にとって参考になる情報かどうかを見極めるといいでしょう。書店でパラパラと見て、写真やグラフ、イラストなどが自分と波長が合うかどうかも大事です。半分は信じながら、本当だろうか? という気持ちを最後までなくさないようにしながら読んでみるといいでしょう。参考になるエッセンスは吸収して実践してみればいいのです。

「名医が教える」が信じられない理由

僕の考える名医とは、多くの症例数を持っている医師です。ただ、症例数の多い医師が誰にでもわかりやすく本を書けるかといえば、それは別の問題です。その人がやってきたことは正しくても、表現する力があるかどうかは疑問です。「名医」の本を選ぶときには、表現する能力があるかどうかも、見極める必要があります。数多くの大腸がんの手術を経験している大腸の専門家の医師が大腸にいい生活習慣を一冊の本にまとめたとしても、それが読者にとって役立つ内容かどうかはわかりません。ですから、タイトルに「名医が教える」と書かれていて、著者が本当に名医だったとしても、その本が本当にいい本かどうかは、別問題だと考えておいたほうがいいでしょう。

専門的な領域では、数多くの論文を発表している人は、名医といえるかもしれません。ただ、論文を書く力はあっても、それを一般の人にわかりやすく表現する能力があるかは疑問です。一般の人にもわかりやすく教えてくれなければ、行動変容は起きません。書店で本を買うかどうか迷ったときには、「著者の言うとおりに自分の生活を変えてみよう」という気が起きるかどうかで判断するといいでしょう。やってみようと感じるのであれば、買って実践してみてください。「名医」と書かれているだけで、つい買ってしまう人は失敗のもとです。判断するリテラシーを高めて、タイトルに騙されないようにしてください。

健康本は次々と新刊が発売されるので「あれもこれも読まなければ」と思ってしまうかもしれませんが、数多くの本を読めばいいというものではありません。やはり自分にしっかり響いた本を何度も繰り返し読んで、それをものにするのがいいでしょう。得た知識の5割ぐらいは実践に移してください。

また、次々と新しい本を読んでしまうと、どの本の内容も中途半端になってしまいます。健康になるためにたくさんの本は読んできたけれど、何一つ自分の行動変容、実践には移っていなかったということになりかねません。知識は増えても自分の実生活の中で実践できていない健康本は意味がありません。

そのためにはわかりやすい本、実践しやすい本を選ぶ必要があります。僕自身も健康本の著者として、どんな本が読みやすいか、実践しやすいかを研究しています。さまざまな本を買って読んでいますが、やはり写真やイラストが多いと理解しやすいと感じます。そして、どの章から読んでもいいように工夫されている本は、読みやすいと思います。最初から最後まで順番に読んでいくのは大変です。

僕が本を書くときには、気になったところから読んでも内容がわかるように工夫しています。小説の場合は、そういうわけにはいきませんが、健康本の場合には編集の仕方で可能です。どこから読んでもいい本には、おもしろい本が多く、気になるところを読み終わったら最初に戻って、最後まで読み切ることも少なくありません。