「治る」「奇跡の治療法」と書かれた本は本当に信じて買ってもいいのか? 眉唾な本を見極めるポイント、知識を実践するためのコツとは。本当に信じてもいい健康本の選び方を、医師であり作家の鎌田實氏が教える。

「肥満はいけない」はウソになっている

良い健康本とは、読者が前向きになれる本だと思っています。たとえば最近は、認知症に関する本も多く出版されていますが、過激な表現で読者を脅すスタイルの本も多いでしょう? でも、年齢を重ねれば、多少のもの忘れをするのは当たり前です。テレビを見ていても、俳優の名前がすぐには出てこなくなります。過度に心配するよりも、生活習慣を見直して楽しく毎日を過ごすことが大事です。それを促してくれる本はいい本です。

固定観念や常識を覆してくれる本も良い本だと思います。たとえば「肥満はいけない」と言われ、2008年からメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の特定健康診査・特定保健指導が始まりました。それ以降、日本中の人がメタボはダメだと思ってきました。たしかに40歳から65歳までの人がメタボになると、その後に脳卒中や心筋梗塞、認知症などの問題が起きやすくなります。しかし、65歳以上の人は、少し太っているくらいのほうが長生きしていることが、最近の研究でわかりました。それを本で知ることができたら、毎日の過ごし方がポジティブに変わると思いませんか?

実際、メタボ検診ではBMI値が25を超えるとダメだと言われてきたのですが、24から27ぐらいであれば、寿命にほとんど影響はありません。元気に好きなことをしている人が多いのです。反対にBMIが18.5以上は正常だと言われてきましたが、20を切ると寿命が短いことがわかってきました。

コレステロールにしても、40歳ぐらいの人にとってはコレステロール値が高いことがリスクになります。ところが高齢になると、コレステロール値が高い人のほうが長生きしています。これを「コレステロールパラドックス」といいます。コレステロール値が高いということは、栄養が行き届いていることになり、それが長生きにつながっていると考えられます。とすると美味しいものを食べた人が“勝ち”ともいえるのです。極端にコレステロール値が高いと死亡率が上がります。しかし、病院で言われている悪玉(LDL)コレステロールの正常上限値140を超えても、180ぐらいまでは寿命に大きな影響はありません。反対に悪玉コレステロールの値が低いのはいいと昔は言われていたのですが、80などに下がってくると栄養が足りずに肺炎を起こしやすくなり、誤嚥性肺炎などで亡くなっている例が多いのです。アメリカ医学会では70歳以上の人にコレステロールを下げる薬は出さない「賢い選択」運動が進められています。

こうした事実がわかると、これまでラーメンを食べるのを我慢していた40代、50代の人が65歳を超して一人暮らしになって、食事の準備が面倒なら、週一度くらいはラーメンを食べても問題ありません。こうした意外な事実をエビデンスとともに教えてくれる本に出合うと、私たちの健康意識、行動意識をポジティブに変えてくれますし、人生が楽になると思います。