都政の課題は墓地不足と介護施設の入所待機者

今回の都知事選で、都民は都政におおむね満足しており、相変わらず政策議論に関心がないことが明らかになった。しかし、都政に問題がないと考えるのは間違いだ。都民が今後、否が応でも直面するのが介護と墓の問題だ。

2023年の東京都の高齢者人口(65歳以上)は311万4000人。この人数がいずれ要介護になる可能性があるが、受け入れる介護施設が足りていない。同年3月の時点で、都内の特別養護老人ホームの要介護度3以上の入所待機者は3万6362人だった。

介護行政を担うのは市区町村である。地価が高くて施設を簡単につくれない市区町村は、地方の施設に要介護の住民を送り込む。しかし、受け入れる施設側も介護職員が足りていない。

09年、群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」で火災が起きて、入所者10人が亡くなった。多くの犠牲者が出たのは、当直がワンオペで避難に手こずったからである。地方に送り出しているので見えにくいが、介護施設や介護職員の不足はすでに起きている問題である。都知事は待機児童より待機入所者ゼロを公約として掲げるべきだ。

この問題を解決するヒントは「水道」とゴミにある。たとえば水道事業を担うのは全国どこでも市町村であり、かつては東京も23区の水道を運営する東京都水道局と、市町村ごとの水道部がそれぞれ水道を管理していた。ただ、事業主体が小さいと効率的な運営が難しく、大規模な投資もできない。そこで1970年代に都営一元化を進めて、東京の水道を東京都水道局に集約。巨大な組織になれば設備投資が進む。かつて東京の水道は飲める代物ではなかったが、最近はペットボトルで売れるほどおいしくなった。ゴミも同じように都に集約された。

介護行政も水道やゴミと同じように、市区町村ごとではなく都で集約すればいい。市区町村単独ではつくれない介護施設も、都にまとめれば可能だ。

設置場所は、東京どころか海外でもいい。タイのチェンマイにある介護施設は欧州の高齢者に人気だが、同じように都がつくって都民を受け入れる。チェンマイは涼しくて過ごしやすく、国内と違って介護職員を雇いやすい。日本から医師や看護師を派遣すれば、言葉の不安も解消でき、ほかにもインドネシアや西オーストラリアのイスマスなど、魅力的な候補地には困らない。

東京は墓地不足も問題だ。私は終活で青山霊園に毎年申し込みをしていたが、ハガキを10年送り続けても当選せず。都立の霊園に当たらなければ、費用が割高の民営霊園か、立体駐車場のような機械式の納骨堂に眠るしかない。

私が都知事なら、全国のゴルフ場を運営するPGM(パシフィックゴルフマネージメント)と交渉し、利用客が少ない関東のゴルフ場を購入して霊園にする。日帰りで十分にお墓参りできる距離で、新たに木を伐り倒す必要もない。

介護施設や職員、墓の不足は、今回の都知事選で争点にすべきだった。都民の政策への無関心が続けば、4年後はまた人気投票となり、石丸ブームに乗っかって今度は全国の首長が“サイバー東京音頭”を奏でるだけだろう。

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※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

(構成=村上 敬 写真=時事通信)
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