3選を目指す小池百合子氏は都知事選の他の候補より「女性から支持されている」という。公約のひとつが、「無痛分娩(ぶんべん)費用の助成」。いい施策だと注目する人も多いが、医師の筒井冨美さんは「麻酔科医の絶対数が不足するなど病院の受け入れ体制が整っているとは到底言えない。小池陣営が、女性票が取れそうだからと現状を考えずに公約にしたのではないか」という――。
「女性票が取れそう」と小池陣営が公約に“ちょい足し”した感
7月7日投開票予定の都知事選も終盤である。現職で最有力候補者の小池百合子氏は3期目の公約として「子育て、教育にお金のかからない東京を目指す」と述べており、その具体策の一つとして「無痛分娩への助成制度新設」を6月18日に発表した。
一方、ライバルの蓮舫氏も7月1日のXで「無痛分娩の無償化の考え方そのものは素晴らしい」と絶賛した。
私は麻酔科の医師だが、この麻酔科は眼科や放射線科などと共に病院内ではどちらかといえばマイナーな存在で、外科や内科のような一般人にイメージしやすい科ではない。その麻酔科の中でも、無痛分娩はさらにマイナーな分野とされてきた。
2024年5月には俳優の生田斗真氏がインスタグラムで、読者の「今日で妊娠9カ月です 出産こわいよー」というメッセージに対し、「旦那様に無痛おねだりするか」と返答したところ、「女性に決定権はないのか」などと反論され炎上騒ぎになった。このように無痛分娩が芸能ニュースや選挙公約として注目される時代がやってくるとは、医師歴30年の私にも予見できなかった。
「無痛分娩への助成」によりスポットライトが浴びる麻酔科の医師としては喜ぶべきかもしれないが、「女性票が取れそう」と小池陣営が実態調査もしないままに公約に“ちょい足し”した感も否めない。当選するなら、公約をぶち上げるのが政治家である。とはいえ、小池都政が3期目に入ったら、公約どおり東京都の女性は本当に無痛分娩の恩恵を受けられるか、現場の視点で考えてみたい。