無痛分娩は無痛ではない

現在の無痛分娩でもっとも一般的な方法が「硬膜外無痛分娩」ある。陣痛の痛みは、子宮から背骨の中にある脊髄という神経の束を通じて脳に伝わる(図表1)。よって、脊髄を取り囲む硬膜という膜の外側の狭い空間(硬膜外腔)に細いチューブを留置し、そこから麻酔薬を投与することで脊髄神経に麻酔をかけて、脳への痛みの伝達をブロックすることで陣痛や下半身の痛みを軽減する(図表2)。

【図表】硬膜外鎮痛とは
日本産科麻酔科学会公式HP

硬膜外麻酔そのものは胃切除や肺切除などの手術でも用いられるポピュラーな手法だが、患者は寝ているだけの手術とは違って、無痛分娩においては妊婦が分娩台で陣痛に合わせていきむ(下腹部に力を入れて踏ん張る)必要がある。

よって、麻酔薬は一般手術よりは薄く、足腰が動き、わずかに陣痛を感じられる程度に調整することが望ましい。また、陣痛が始まって周期的で本格的な陣痛になってから硬膜外カテーテルを入れるケースが多い。

無痛分娩と呼ぶものの「完全に無痛」ではなく「和痛分娩」と説明している病院も多い。2008年のドラマ「風のガーデン」では、中井貴一が演じる末期がんの麻酔科医が、がんの痛みを硬膜外麻酔で抑えながら娘の結婚式でバージンロードを歩く場面があるが、この麻酔テクニックに近い。