霞が関で「最もブラックな省」はどこか。元労働省キャリア官僚で神戸学院大学教授の中野雅至さんは「単純に比較はできないが、さまざまな指標から考えて厚労省は霞が関のブラック筆頭と位置づけても間違いはない」という――。

※本稿は、中野雅至『没落官僚 国家公務員志願者がゼロになる日』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

ストレスを抱えた若いビジネスマン
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コロナ禍で多忙を極めた厚労省

以下では、職場としての厚労省を取り上げることとしたい。厚労省の長時間労働を特に取り上げる理由は三つある。

1つ目は、厚労省は働き方改革など国民生活に深く関連する政策を扱うことから、そもそも、長時間労働を前提とした働き方をしていること自体、政策立案に負の影響を及ぼすのではないかということだ。

例えば、コロナ禍で厚労省は多忙をきわめたが、同省の2階大講堂に設けられた対策本部はその象徴だったように言われる。24時間態勢で仕事にあたっていて、食事をとる暇もないので講堂入口にはカップ麺や栄養ドリンクなどが山積みになっていたという。省内には体調を崩す職員も多く、妊娠中の職員が急遽、入院したケースもあったという(NHK取材班 2021)。少ない職員で多大な業務を処理することを考えると、現場感覚では致し方ないという受け止めになるのだろうが、こんな状態で有効な子育て支援策が作れるのかという疑問が世間から出てくることは避けられない。

若手チームの提言が「長時間労働の構造」を示している

実際、類似のケースとして、岸田総理が2023年1月27日の参院代表質問の答弁で、「リスキリングへの支援を抜本的に強化していく中で、育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししてまいります」と発言したのに対し、野党などから「子育てと格闘している時にできるわけがない」「赤ちゃんを育てるのは、普通の仕事よりはるかに大変。子育てをしてこなかった政治家が言いそうなことですね」などと、育児の実態を理解していないと批判する声が上がった(「朝日新聞」2023年1月30日付)。

政策立案者の背景が問われるケースは従来からあったが、多様性が高まり、ネットなどを通じてさまざまな声が拾われるようになって以来、この傾向はさらに強まっていると考えられる。

2つ目は、19年に公表された「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」(以下、緊急提言)では、さまざまな角度から職場としての厚労省の問題が指摘されているが、それらが霞が関の長時間労働の構造を余すところなく示しているからだ。