「生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」

改革の原点としてあげられているのは、「入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」「仕事自体は興味深いものが多いと思いますが、このような時間外・深夜労働が当たり前の職場環境では、なかなか、一生この仕事で頑張ろうと思うことはできないと思います」という、職場環境に対する強い不満である。

チームが緊急提言を出すにあたっては、本省勤務者約3800名を対象とした大規模アンケートを2回実施している。また、事務次官などの幹部だけでなく、すべての人事グループの幹部・若手に対してヒアリングを行うとともに、外部の視点を取り入れるため他省庁や企業等の関係者にもヒアリングを行っている。これらからもわかるように、緊急提言は国家公務員総合職試験を経て入省した者だけでなく、さまざまな試験を経た本省勤務者を対象にしたものである。

緊急提言の中身は4つの分野から構成されている。職員の増員、生産性の徹底的な向上のための業務改善、意欲と能力を最大限発揮できる人事制度、「暑い、暗い、狭い、汚い」オフィス環境の改善である。なお、職員の増員については、内閣人事局に対して要請するとだけしているので詳細な説明は割愛し、3つに絞って以下で説明していくこととする。

文書に署名する男性ビジネスマン
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幹部の予定表を手書きで作成

まず、1つ目の「生産性の徹底的な向上のための業務改善」では、①審議会等の会場設定などの準備業務の分業・集約化、②給与支給事務の集約・効率化、等の14項目が並ぶ(図表1)。これらをみて何を思われるだろうか? すべての人事グループからヒアリングを行った上での緊急提言であるため、官僚が担う政策の企画立案だけでなく、省内にあるさまざまな仕事が取り上げられている。長時間労働の要因となる業務は多岐にわたっていて、複雑で構造的な問題であることがわかる。

次に、眉をしかめたくなるほど、デジタル化が進んでいない。ペーパレス化や省内チャットシステムなどの活用などに遅れがみられるのは言うまでもない。

例えば、スケジューラーの活用の徹底については、幹部などの予定表を手書きで作成したりするために手間暇がかかるだけでなく、会議室についても電話・メールで空き時間を確認する必要があるという。何事も上司の許可を得て仕事を進める傾向が強い役所の場合、幹部の了解を得ること自体に多大な労力を費やしがちであることから、幹部日程が日々手書きで更新されていくのは時間のロスが大きいということである。

局長が部屋にいるかどうかを確認するだけのために、何度も局長室と自席を行き来するという経験をした官僚は多いだろう。しかも、忙しい局長のわずかな隙間時間をぬって、仕事を進めるための了解を得たりしなければいけない。そういう何も生み出さない神経だけをすり減らす仕事のために、貴重な時間が潰されているのだ。