厚労省は霞が関のブラック筆頭

3つ目は、緊急提言ではさまざまな具体的な改善策が示されているにもかかわらず、厚労省に限らず、本省勤務者の労働条件の改善に資する抜本的な対策が実行に移される気配がないからだ。民間企業の場合、人的資源の摩耗は、売上の低下、他企業との競争での敗北などさまざまな機会を通じて知ることができるため、労働者福祉という観点だけでなく、生産性の向上や人的資源の確保といった観点からも、労働条件が改善される。だが、公務員の場合にはそういうことがない。人手不足がはっきりする中、人的資本や生産性の向上がすでに大きな課題となりつつあるにもかかわらず、なぜ、官僚に限っては放置されたままなのか。理由の一つははっきりしている。公務員の使用者という意識を、政治家や国民が持っていないからだ。

ところで、どこの役所が最も忙しくてブラックと言えるか、皆さんはおわかりだろうか? もちろん単純に比較はできない。部署によるからだ。忙しい役所でも暇な部署に行けば午後7時に帰ることもできる。その意味で、役所全体で均した比較という前提になるが、さまざまな指標から考えて厚労省は霞が関のブラック筆頭と位置づけても間違いはないだろう。自民党行政改革推進本部によると、中央官庁の中でも厚労省が1位として取り上げられている(業務量が際立って多いということ)のが、国会答弁回数2212回(2位は文科省)、所管委員会出席時間数419時間(2位は財務省)、質問主意書答弁回数38回(2位は文科省)、審議会等開催回数417回(2位は総務省)、訴訟件数1179件(2位は財務省)である。

厚生労働省が入る中央合同庁舎=2019年1月10日夕、東京・霞が関
写真提供=共同通信社
厚生労働省が入る中央合同庁舎=2019年1月10日夕、東京・霞が関

トラブルがあれば不夜城と化す

社会保障から雇用にいたる守備範囲の広さに加えて、国民生活に直結するだけにマスコミや世論の目線も厳しく、何かトラブルがあれば厚労省は不夜城と化すからだ。もはや慢性的に人手不足状態が続いていて、ゴマすり大好きの官僚が大臣にさえ気遣う余裕をなくしている始末だ。「日本経済新聞」(2019年3月29日付)によると、根本匠厚労大臣(当時)は幹部職員用の国会答弁原稿を読み込み、自ら書き直すこともあるという話や、厚労相経験者の話として「官僚が従来の説明と矛盾する原稿を作ってくることもある。幹部職員のチェックも不十分で、官僚答弁まで政治家が目を通さなければ危険」という談話を紹介している。

このような状況下で公表されたのが緊急提言である。このチームは、20代・30代を中心とした若手38名、18の全人事グループから構成されているが、その目的は「業務・組織の在り方」などを自主的・主体的に自由な発想で議論し、厚労省の改革につなげていくことである。