ダーク・ストアを使わないことで生じる課題
自前のダーク・ストアでなく既存スーパーの店舗を配送拠点とすることには、課題もある。ダーク・ストアを用いたときよりやや配送時間が伸びることもその一つだ。
さらに、クイックコマース事業者にとってのダーク・ストアの大きなメリットは、商品在庫のリアルタイム把握が可能なことである。一般客が入店しないダーク・ストアでは、棚の商品がピッキング作業以外で持って行かれることはなく、在庫状況をリアルタイムでデータベースに反映させることが容易である。注文画面にある商品が実際には欠品で届かない、といったトラブルは生じにくい。
一方、現在のOniGOのアプリには、イトーヨーカドーの店舗の在庫状況がリアルタイムで反映されているわけではない。そのため、実店舗で欠品が起きると、注文画面には商品が掲載されているのに、実際に注文してみると商品が届かないということも、理屈の上では起こりうる。一般客による購買もあるスーパーの実店舗では、在庫状況をリアルタイムでOniGOのデータベースに反映させることは難しい。
不確実な環境下で成長を続けていくために
しかし、イトーヨーカドーのように店舗が大きく、商品の各アイテムの在庫が厚い場合には、店舗における欠品がそもそも起きにくい。そのため、注文画面にある商品が届かないというトラブルが起きるケースは少ないと、OniGOはこれまでの経験からつかんでいる。
スーパー店頭にある惣菜や精肉の品揃えがダーク・ストアより幅広いのも、利用者にとっては魅力的だ。住宅街に高密度で配置することが望ましいダーク・ストアは、イトーヨーカドーの店舗ほど規模を大きくすることが難しく、品揃えはスーパーのリアル店舗に比べどうしても劣る。イトーヨーカドーなどの既存店舗との連携は、この問題を解消する。
また、既存店舗と連携しながら事業を広げていくことによって、自社でダーク・ストアを新たに出店していく場合より成長速度を速めることもできる。
不確実な環境下で企業が成長を続けていくために必要な迅速さを、コンサルタントの山本政樹は、レースカーにたとえて説明している(『Business Agility』プレジデント社、2021年)。そこで必要となるのは、F1マシンのような時速300キロを超えるようなスピードではなく、ラリーカーのように路面環境の変化に的確に対応していく迅速さなのだという。
OniGOの事例には、その説明がよくあてはまる。巧みなハンドリング、さらにアクセルとブレーキの切り替えで、OniGOは一度苦境に陥ったクイックコマース・ビジネスを、新たな成長軌道へと導いている。