要因② 異業種との連携を嫌う「よそもの排除」

ここでの「よそもの排除」とは、特に日本のモビリティーに関連する多様な産業や組織が縦割りとなっており、個別にサービスを磨き上げようとして、外部事業者との関係構築に後ろ向きとなっている、業種・業界間の壁を指す。

モビリティーが与える体験価値を高めるためには、その価値を生み出す多様な生活サービスと掛け合わせることが必要になる。しかし、自動車産業内の連携であればまだしも、ITや飲食・小売り・ヘルスケアなど異業種との連携は、日本においては各企業が自前で有するデータインフラの閉鎖性などに阻まれて難しいのが現状だ。

例えば、北米のライドシェア大手であるウーバーとリフトはともに、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使い、病院の予約システムとシームレスに連携した配車サービスを提供している。

写真=iStock.com/5./15 WEST
※写真はイメージです

ここでは、ヒトやモノの移動ニーズを把握できる異業種の需要データとモビリティーの供給データを、いかにマッチングするかが重要となる。

しかし日本では、モビリティーと生活サービスを掛け合わせたモビリティーサービスを共創しようにも、異業種間横断でデータをやり取りすることはまだ一般的ではなく、「よそもの」に開かれていないのが実情だ。

このような状況を打破し、「よそもの排除」の壁を乗り越えることが重要である。

要因③ モビリティーデザインの「指揮者不在」

モビリティーデザインの「指揮者不在」とは、複合的なスキルや経験を持ったリーダー的人材が見当たらないという人材不足の壁のことだ。

体験価値や生活の質の総和の向上を実現するモビリティーをデザインするためには、異業種連携なども推進できる経験豊富な人材が求められる。

海外では、雇用の流動性が高く、社会人になった後の学び直しの機会も多く与えられるため、いくつかの専門性を基に複数の業界を行き来する人材が多く存在する。一方、日本国内では、雇用の流動性が上がってきているとはいえ自動車関連企業、その中でも完成車メーカーを中心に雇用は安定的といわれている。異業界の経験やスキルが評価されにくい状況となっているのが実情だ。

このままでは、クルマなどの個別のモノや移動手段のデザイン・開発は実現できたとしても、生活の質全体を高めるような、モビリティーの全体設計を担う「指揮者」が不足してしまう。

日本でもこうした指揮者となるような、複合的なスキルや経験を持った人材を輩出していくことが求められる。