人材不足の解消法

このように異業種間のデータ連携により、生活者の利便性向上と、食材提供者や場所提供者の売り上げ向上を実現し、Win-Winの仕組みとなっている。異業種のデータを活用してモビリティーサービスを提供することにより、生活の利便性を高めた好事例だ。

このように、生活サービス産業やモビリティー産業が「よそもの排除」の壁を乗り越え、「共助」の異業種連携を推進していくことで、人々の生活の質を高めるモビリティーサービスが広まっていくことが期待できる。

◆勝ち筋③:モビリティー人材輩出のエコシステム構築

「モビリティー大国」を目指す上で障害になるモビリティーデザインの「指揮者不足」の壁を乗り越えるためには、モビリティーデザインの全体設計を行うことができる人材「モビリティーアーキテクト」を、意識的に輩出・育成していくことが重要だ。産学官の連携により、モビリティーを軸にした多様な実務経験を積めるような育成環境を創出していくことが日本の勝ち筋となる。

なぜなら、今後のモビリティーデザインに求められるのは、今までのような産業に閉じた個別分野の特化型人材ではなく、複数産業の視点を持つモビリティーの総合型人材であるからだ。

前述の勝ち筋②で言及した異業種連携においても、それを支えられるような人材育成が重要となる。そのため、モビリティー人材の育成・輩出には産学官連携によるエコシステムを構築することが必要である。

デスクワークをするビジネスマン
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会社の内部ではなく外部で経験を積む必要

これからのモビリティーデザインを担う人材「モビリティーアーキテクト」に必要になるのは、モビリティーにとどまらず、複数領域に関する高度な知見と実践力である。

具体的には、地域や生活者、来訪者の状況や、街の機能との相互関係を理解して、全体として生活者の生活の質の総和が向上するようなサービスを設計するスキルが求められる。

このような高度な人材を育成・輩出するエコシステムの具体的な施策として、「産」での人材育成の実践機会の提供、「学」での理論の学習機会の担保、人材育成を後押しする「官」の資格制度が考えられる。

順に見ていこう。まず「産」では、実践の観点で、モビリティー産業の内部ではなく外部において、実践経験を積めるようにすることが効果的だ。例えば、モビリティー産業から関連サービス産業への人材出向といった人材交流機会を整備することが考えられる。

すでに徐々にではあるが、「地域活性化起業人」(企業人材派遣制度)などの人材派遣の枠組みを使って、モビリティー産業の人材が地方自治体などの現場で、地域のモビリティーをデザインする動きが出始めている。

「学」においては、専門スキルを習得する大学・大学院のコースの設置が重要だ。

スマートシティーの分野ではあるが、米国のトーマス・ジェファーソン大学が「スマートシティーアーキテクト」に対応した修士課程プログラムを設けている。これは、複合的な知見が求められる高度な人材輩出を目指したものであり、まさに「モビリティーアーキテクト」にも応用できる取り組みだ。