人口7000人の町で書店を続ける手腕

前述のウィー東城店を経営する株式会社総商さとうが出店する。代表取締役社長の佐藤友則さんからこの計画を聞いたのは昨年秋だった。筆者は3月に、11の独立書店を取材したノンフィクション『本屋のない人生なんて』(光文社)を公刊した。その3章で佐藤さんの経営するウィー東城店の物語を書かせてもらっている。

人口7200人(2021年当時)の町で、書籍を真ん中に、CD、文房具、化粧品、地域の特産品など、複合的に組み合わせて取り扱う経営手法もさることながら、佐藤さんをはじめすべてのスタッフが「徹底して来店客の心に添う」ことを目指す経営方針だった。

地域の高齢者から赤ちゃん連れまで、あるいは店の向かいにある小学校の子どもたち、さらには、学校や会社に通うことにつらさを感じる人など、あらゆる人を受け止めることにスタッフが全員で工夫を重ねていた。佐藤さんによれば、それは「本」を商っているからこそできることなのだという。人口7000人の町で書店を成り立たせている経営力は、計数の捉え方もさることながら、本の力を知る書店員の強さを見せられる思いのする、まさに「腕」だった。

だが、そのウィー東城店でも、2022年度の決算は十数年ぶりに赤字だったと佐藤さんは話した。この出店計画を聞かされたのは赤字決算の話のあとだった。しかも、今回は複合的な店舗形態ではなく、本と雑誌だけで書店をつくるつもりだというのだ。一体、何が起きようとしているのか。

「やっぱり、本屋がないと困りますから」

「庄原に本屋をつくってほしいと頼みました。やっぱり、本屋がないと暮らしている人たちは困りますから」

庄原市議会議員の林高正さんは、言い出しっぺだ。5期目の現在、議長を務める。佐藤さんより20歳近く年齢は上だが、ウィー東城店を訪ねたことがあり、佐藤さんとは顔なじみだった。

筆者撮影
庄原市議の林高正さん

庄原市には県立広島大学庄原キャンパスがあるが、学生数の減少や学生食堂の運営など、大学の存続に関わる問題が生じていたことも気がかりだったと林さんは言う。同大に進学して庄原市に移り住んだ学生のためにも、本屋はあったほうがよいということか。

庄原市商工会議所の本平正宏専務理事も出店を応援したという。

「ネットで検索すれば情報を得られる時代ではあります。でも、実際に書店に行って本を眺めて、その中から自分に必要な本を探しながら、自分で考えたり調べたりすることで、大切なものが積み重なっていくし、それは生きる力にもなるでしょう。だから、子どもたちのためにも本屋は必要なんです」

筆者撮影
庄原市商工会議所理事の本平正宏さん