破格の家賃でテナントを貸した理由
「うちの、このテナントを担当する社員から、佐藤さんにここを貸してあげてくださいって頼まれたんですよ」と笑うのは店舗物件のオーナー、長岡廣樹さんだ。長岡さんはこの物件を所有する長岡商事の社長で、本社はテナントに隣接する。筆者の試算では、この場所の坪あたりの賃料の相場からすれば、半額に近い破格の家賃で長岡さんの会社は佐藤さんと契約をしている。
「社員に、あなた、どっちの社員なんやっていったほどですよ。それくらい、うちの社員は佐藤さんに借りてほしいと一生懸命でした」
それはこういう話だった。前述の林さんが佐藤さんに「庄原に本屋を出してほしい」と言ったあと、地元の信用金庫の支店長が、コンビニエンスストアが撤退して半年以上空き店舗になっていた物件を、佐藤さんに紹介。内見に訪れた佐藤さんは一目で気に入ってしまった。だが、家賃が高くて手が出せない。
佐藤さんと商談を進めた長岡商事の担当者は、ぜひとも書店に入ってほしいと思い、社長の長岡さんに頼み、長岡さんはほだされた――。
このエリアに休日の賑わいをもう一度
とはいえ、それで採算がとれるのか。
「ここはもともと庄原の中心部だったんですが、近年はバイパス沿いに流通店が集まって人の流れが変わってさびしくなりました。でも、ご覧の通り、周辺には幼稚園や小学校、高校があります。同じ敷地に小児科クリニックもある。ここに本屋さんができれば、きっと人の集まる場所になるでしょう。そうすれば、同じ敷地に本社のあるうちの事業にもプラスになりますから」
だが、健康関連施設など、ほかにも複数の企業から正規の家賃で借りたいという話があったとも聞いた。それでも、家賃の売上は低くとも本屋さんにきてほしい、その渇望はどこからくるのか。ここからは、長岡さんの会社の社員で「ほなび」の物件を担当した前田仁美さんの話を聞こう。
「庄原の人は穏やかでとてもやさしい気質だと思います。私はこの会社で働くようになって10年ほどですが、ほんとうにいい町です。でも、週末になるとこの一帯はがらんとして静かになってしまいます。この町に、佐藤さんの本屋ができることでまた活気が戻ってほしいです。そうしたら、ここに暮らすみなさんがうれしいと思うんです」