リスクヘッジしなければ勝てない

受験の最大の意義は、リスクヘッジができなければ勝てないというところにあります。たとえば東大の入試では、最初に思いついた答えをそのまま書いたら足元をすくわれるような「ひっかけ問題」が多く出題されます。

一度答えを導き出しても、もしかしたらほかの答えがあり得るかもしれないと考えて、別の可能性や選択肢をチェックする。それができないと、いい学校には合格できないのです。

それを思えば、受験を経験していない総理大臣が「この道しかない」と、リスクヘッジなしで突き進もうとしたのも、もっともかなという気がします。彼は政治家なのでそれでもやっていけたのでしょうが、これだけ赤字があって売上は増えないのに、外遊のたびにお金をばらまく経営者がいたら、民間企業なら失格です。

民間企業の経営者としてなら唯一評価に値する点は、非正規雇用を増やして労働コストを下げたことですが、これは政治家としては最悪の判断です。

認知症の老人を抱え、子どもの学力は下がり、家計は火の車で借金まみれ。いまの日本は、たとえるならそんな家庭のような状況です。

それにもかかわらず「隣に物騒な人がいるから防犯システムに月10万円かけよう」と言い出しているお父さん=為政者に、「私たちのことを守ってくれるのね」と、家族=国民は介護負担や借金のことも忘れて感激している。その日本の構図は今も変わっていないと私は思っています。

しかし「勉強していない金持ちのボンボン」は、リスクヘッジを身につけてきていないため、勉強している「頭のいい人」にだまされて、簡単に足元をすくわれることがあります。

日本を代表する大企業の創業家の息子が、そそのかされるままに事業に手を出してはことごとく失敗し、巨額損失を出して、2000億円とも言われる相続財産があるのに、カードも使えなくなっていると報じられたことがありますが、これは、その典型的な例です。

勉強して「頭のいい人間」になれば、頭の悪い「金持ちのボンボン」をだます側に回ることもできます。少なくとも、だまされて搾取される側にはならずに済むと言えるでしょう。

情報で自分の身を守る

「知らないから損をする」ということが、世の中には多々あります。

たとえば介護保険の制度について、どういう状態になったら介護保険を利用できるのか、どんなサービスが受けられるのかということを知らなければ、いつまでも利用できず介護保険料だけとられ損、などということにもなりかねません。

黙っていても国のほうから制度の利用について懇切丁寧に教えてくれる、などということは期待できません。国としては、利用者が少ないほうが財政的には都合がいいのです。損をしたくなければ、自分自身で調べるしかありません。

医学や健康の知識にしても、時代が進むにつれてころころ変わります。

たとえば、どの脂肪が体によいかということも、かつては植物性脂肪のマーガリンが体によいとされていましたが、いまでは魚の脂などがよいと言われるようになっています。血圧や血糖値の正常値も変化しています。能動的に情報を得るということをしなければ、健康や命にさえかかわるリスクがあるのです。

群馬大学医学部付属病院で2010年から2014年にかけて、腹腔鏡手術や開腹手術を受けた患者8人が相次いで手術死した事件(同じ医師による手術で少なくとも30人の死亡が確認されている)がありました。

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この事件は、最終的に医療ミスを訴えた患者が出たことによって発覚したわけですが、言い換えれば、それまでに死亡した患者側は誰ひとり訴えていなかったということです。

手術を執刀する医師や病院にとって、もっともプレッシャーのかかる患者は、多額のお礼を積んできた患者などではなく、いろいろ調べていて、失敗したら確実に訴えそうな患者です。

事件のあった大学病院でも、訴える可能性の高そうな患者の手術を、技量の低い医師に執刀させることは避けていたのではないかと思います。

結果的に、訴える可能性が低いと病院側に判断された患者が下手な医者の練習台に回されて犠牲になったとも推測できます。そして、実際に18人続けて訴えませんでした。