人気の理由は「ヴォルデモートとの戦い」ではない
「『ハリー・ポッター』のストーリーを説明してください」と尋ねると、多くの人が「ハリーとヴォルデモートの戦い」と答えるだろう。もしくは「ホグワーツ魔法学校で子供たちが成長する話」になると思われる。この答えこそが『ハリー・ポッター』の魅力と印象を表している。
魅力とは「成長」というキーワードである。たいてい映画には登場人物の成長が付きものだが、『ハリー・ポッター』は登場人物が12、3歳から10年間にわたり実際に成長する様子が見ることができる。肉体的成長、声、喋り方、立ち居振る舞い、演技の上達などである。
『ハリー・ポッター』を1作目の映画公開時から追いかけている思春期の少年少女たちは、登場人物たちの成長を目の当たりにして何を思ったのだろう。他人から見るほど、自分自身の成長は気づかない。彼らと一緒に成長していると感じていたのだろうか。それを思うと、とうに年をとっていて、その体験ができなかった自分が残念で仕方がない。
そして「印象」とはホグワーツ魔法学校に代表される場所を中心とした世界観である。ストーリーは先ほど述べたようにハリーvs.ヴォルデモートに集約されてしまいがちなので、細かいエピソードより世界観のほうが印象は強い。実際に何度も映画を観ている私もそうである。
『ハリー・ポッター』のファンは、ホグワーツ特急に乗りたいし、ホグワーツ魔法学校に入学してグリフィンドールかスリザリンか自分が気に入っている寮に入りたいし、クィディッチでゴールを決めたいし、ダイアゴン横丁で買い物をしたいのだ。
これまでの「映画をもとにしたテーマパーク」との違い
これまでの映画や物語から作られたテーマパークは、ほとんどがキャラクター中心である。○○ワールド、△△ランド、□□ミュージアム、ヒーローショーなど、キャラクターがメインで来場者に語りかけるが、キャラクターが中心だと、キャラクターの性質から逃れることができず制約が多い。
それに対し、映画も含め『ハリー・ポッター』の世界を疑似体験できる場に足を踏み入れた者は、もともとの世界観が現実世界と魔法世界が曖昧なことが功を奏して、自分でイメージを補完し、自分の日常と『ハリー・ポッター』の世界を自由に行き来しているのかもしれない。『ハリー・ポッター』が、小説・映画以外に飛び出す理由はそこにあると思われる。
『ハリー・ポッター』の増殖はこれからも続くだろう。エンターテインメントのひとつの新しい形を示しているのかもしれない。