『鬼滅の刃』はなぜ大ヒット作となったのか。神話学者の沖田瑞穂さんは「作品を貫く愛と死というテーマは、インドネシア神話に通じる。古い神話的価値観を現代によみがえらせたことが、多くの人の心をとらえたのだろう」という――。
※本稿は、沖田瑞穂『すごい神話 現代人のための神話学53講』(新潮選書)の一部を再編集したものです。
『鬼滅の刃』のテーマは神話から読み解ける
2020年の特筆すべき出来事として、『鬼滅の刃』(作者:吾峠呼世晴)が大ヒットしたことが挙げられる。漫画は2016年から2020年まで『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載され、単行本が全23巻刊行されている。そのシリーズ累計発行部数は1億5000万部にのぼるという(2021年2月時点)。また2020年10月には劇場アニメとして『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が公開され、12月27日に興行収入が324億円を突破し、それまでの第1位であった『千と千尋の神隠し』を抜いた。
さて、この大人気作品の中心テーマには、じつは神話から読み解ける部分がある(以下に、『鬼滅の刃』に関するいわゆるネタバレがある。ご注意いただきたい)。
本作品では、首を取られない限り不死である「鬼」と、人間である主人公たちとの戦いが描かれている。主人公の竈門炭治郎は鬼にされてしまった妹の禰豆子を人間に戻すべく、鬼の祖であり頭である鬼舞辻無惨を探している。炭治郎と禰豆子が体現する「家族愛」と、鬼が体現する「自己のみで完結していて愛はない」という価値観が対立しているものと読むことができるだろう。