この40年間、日本人の価値観はどのように変化したのか。1980年~2020年代のヒット曲約4,100曲を分析した博報堂生活総合研究所の酒井崇匡上席研究員は「各世代のヒット曲に頻出するワードの変遷を見るといい。日本人の好みや恋愛観が大きく変化しているのがわかる」という――。

約40年間のヒット曲を分析し、AIで曲を作る研究

“青春時代のヒット曲”と言われて、あなたはどんな曲を思い浮かべますか?

「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉もありますが、そもそもヒット曲は世相を色濃く反映する非常に面白い分析対象です。

そこで生活総研ではこの度、1980年~2020年代のヒット曲約4,100曲に高頻度で登場するワードを分析。さらにその分析結果を基にAIを使って各年代の「ヒンド(頻度)ソング」を制作する、という研究とも企画ともつかない試みを実施してみました。

時代を見事に映し出した「頻出ワード」

分析の対象としたのは、1980~2020年のオリコンランキング上位約4,100曲の歌詞データです。1980~2019年は年間シングルランキング上位100位、2020年のみ配信などを加味した年間合算シングルランキング上位100位のデータを使用しています。

各年代のヒット曲でよく使われた名詞をまとめたのが図表1ですが、面白い傾向が見えてきます。

各年代のヒット曲でよく使われた名詞

年代別にみると、1980~90年代は「恋」「瞳」「夜」「夏」「男」「女」という名詞が他の年代に比べて頻繁に登場していました。バブル前後の経済的な活況も背景にして、夜に夏に恋をわずらう男女の様子が盛んに歌われていた、ということです。

一方、1990年代後半~2000年代になると、「空」や「明日」という言葉が増加します。長引く不況の影響もあって、空を見上げ明日を模索する姿が歌われるようになったのです。

そして直近の2010~20年代には、「自分」「手」「未来」「世界」といった言葉が増加しています。景気が多少上向きつつ、SNSによって個人が世界に直接発信できる環境が出てきたことで、自分の手で未来や世界をひらく前向きさが盛んに歌われています。