小売業の店頭で「ポポポポポー」という音楽を鳴らす「呼び込み君」が大ヒットしている。なぜ単調な音楽が、販促に効果を発揮するのか。Screenless Media Lab.の堀内進之介さんと吉岡直樹さんの共著『SENSE』(日経BP)より紹介する――。(第1回)

人間は無意識のうちに「音」に動かされている

音は、「方向の指示」、「気づきのタイミング」、「行動の促し」、「注意の方向づけ」に使われています。それぞれ、目的を果たしているデザインを見てみましょう。

音で方向を指示している例に、エレベーターの到着音があります。

大きなビルだと、エレベーターが何台も並んでいますね。上に行く人もいれば下に行く人もいます。最近の、性能の良いエレベーターは上り下りで到着音が違います。

エレベーターのボタン
写真=iStock.com/Weerawich Ananparit
※写真はイメージです

わざわざ行き先を見て確認せず、音で気づかせるために、上りと下りで到着音を変えています。

もちろん、たまにしか使わないと区別がつかないでしょうが、そのビルで働いている人などは「これは下りの音だな」と無意識に学習します。音の方向指示がうまく機能している例といえるでしょう。

「気づかせる」には視覚より音がいい

次に、気づきのタイミングの例です。これは何かを気づかせるために音を鳴らします。最近のわかりやすい例は電気自動車(EV)の徐行音です。

EVはエンジンが搭載されていないため走行時に音がほとんどしません。そのため、歩行者は車両の接近に気づきにくく、事故につながる恐れがあります。歩行者に車両の接近を気づかせるために、車体に取りつけられたスピーカーから擬似的な徐行音を鳴らしています。

音ではありませんが、同じような例に都市ガスのにおいがあります。都市ガスは本来無臭です。気体なので目に見えず、においもしないし、漏れても気づきません。ガス漏れに気づくためににおいをあえてつけています。

「気づきのタイミング」は、視覚ではない感覚をよく使っています。注意を払っていなくても割り込める特性があるからです。

視覚は人の注意をあらかじめ獲得していないと気づきにくいですが、視覚以外の感覚は割り込み可能です。気づきを与えるのに、非常に有効に働きます。

行動の促しは最も一般的な音の使われ方です。

例えばファストフードのレジの店員さんのしゃべり方は通常の会話よりもテンポが速いのはよく知られています。店内のBGMもアップテンポです。

これは単価が高くないために、お客さんの出入りの回転を速めるひとつの手法です。ゆっくりしたしゃべり、ゆったりした曲調のクラシックなどは意識的に避けています。