マーケティングの世界では「説得力を高めるために、ゆっくり話したほうがいい」とよくいわれる。しかし、現実はそう単純ではない。さまざまな実験では、ゆっくり話すよりも早口で話しているほうが、好感をもたれやすいことがわかっている。それはなぜか。Screenless Media Lab.の堀内進之介さんと吉岡直樹さんの共著『SENSE』(日経BP)より紹介する――。(第2回)
マイクで話す男性
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メールより直接伝えたほうが説得力は高い

言葉によるコミュニケーションでは、話される内容だけではなく、「伝え方」も影響力を持ちます。ここでの伝え方とは、言い回しではなく、トーンやイントネーション(ピッチ)を指します。同じ内容を話すにしても、早口か、ゆっくりか、女性の声か、男性の声かで、伝わり方がまったく変わります。

専門用語で、メッセージの内容やテキストの中身を「言語的チャンネル」、声の特徴を始めとする声にまつわる情報を「声的チャンネル」と呼びます。

通常、私たちの音声情報にはこのふたつが含まれていますが、テキストには前者の文字情報しかありません。言い方によって伝わるイメージの情報は増えますので、「声的チャンネル」のほうが情報量は多くなります。

その結果、声的チャンネルによって伝えられる音声特性は、言語的チャンネルによって伝達されるメッセージよりも重要な役割を果たすことがしばしばあります。

例えば、あなたが仕事を終えてそのまま帰宅する予定だった日に同僚に急に飲みに誘われたとします。そのときに自宅に電話して「今日、飲みに行くけどいい?」と家人に尋ねると、「いいよ」と返答をもらえました。

でも、この「いいよ」が本当に「いいよ」なのかは別の問題ですね。「いいよ」と口でいいながらも心の底ではそう思っていないことはよくあります。家人の「いいよ」の言い方次第では、家庭円満のために帰る人もいるはずです。

他の例を挙げると、仕事でクライアントと電話で話していて、「それいいですね、機会があったらやりましょう」といわれても、言葉通り受けとめる人は少ないでしょう。

「それいいですね」が本音かどうかは声を聴けばある程度はわかります。「検討します」、「前向きに考えます」と言われても、声から判断して「これはないな」と気づいた経験は誰もがあるはずです。声的チャンネルによってのみ伝わるメッセージがあるので、声を直接聴くことはビジネスで意思決定する際にも重要です。

声の高さと話す速さが、人柄まで決める

このように、音声が重要な役割を果たしているのは明らかですが、声的チャンネルの研究は少ないのが現状です。人間の感覚に訴えるマーケティングの研究がそもそも少ないのですが、声の研究はとりわけ少ない印象です。

そうした中でも販売の場面や電話インタビュー、人前でのスピーチでの声の特性についての影響を考察した研究をいくつか紹介します。

これらの研究では、声の中の、大きくふたつの部分に着目しています。

ひとつは、声の高さ(基本周波数)、もうひとつはしゃべる速さ(発声速度)です。

このふたつが聴き手に大きな影響を与えています。話す内容の信憑性の判断基準になっているのですが、もっというと、聴いている側が、話し手自体が「どういう人か」を判断する根拠にすらなっているのです。