「音声ナビダイヤル」の失敗
一方、音情報を使いながら、目的をうまく果たせていないデザインの事例もあります。
わかりやすい例が、問い合わせサービスなどでよく使われている電話での音声ナビダイヤルです。電話をかけると自動音声で、番号とサービス内容が流れ、自分が希望するサービスの番号を選択して、ガイダンスに従って進むしくみです。みなさんの中にも、何度もボタンを押して、結局、自分の希望するサービスが何番かわからずに最初に戻る苦い経験をした人が少なくないはずです。
あれが使いにくいのは、視覚的なフォーマットを聴覚のフォーマットに互換したからです。目で見て、いくつも並んでいるサービスから選んで、サービスの番号を押すしくみならば負担は少ないはずです。
ところが、耳で聴いて判断する場合では、順番に説明を聴いて覚えていなくてはいけません。ひとつやふたつならまだしも、5つや6つになると、覚えられないので何度も聴かなくてはいけない事態に陥ります。こうした問題は、人間が一時的に物を記憶しておく能力(ワーキングメモリー)を無視した設計になっているからです。
まったく合理的ではない
ワーキングメモリーの使用は人間にとって負担です。しかし、ナビダイヤルはワーキングメモリーを使う前提です。ですから、みなさんナビダイヤルに電話するのは面倒くさいし、実際電話するとイライラするものです。人間の特性から考えると、実はまったく合理的でないしくみといえるでしょう。
余談になりますが、もちろん現在のナビダイヤルの欠陥に気づいている人たちもいます。テクノロジーの力で解決しようと、会話型のナビゲーションの開発を進めています。利用者に番号を選んでもらう手順を踏まずに、一方的に話してもらうしくみです。話した内容に含まれている単語から、用件が何か、どこにつなげばいいかを人工知能(AI)が類推して、適切な担当につなぎます。
このように、従来の音声ナビダイヤルのナビゲーションを生かしたまま、私たちが番号を選択するプロセスを不要にする技術の実用化を目指しています。