2000年代から恋愛と性の言葉が消えていった

J-POPというと恋愛ソングが鉄板だった印象がありますし、近年のヒット曲の中にも恋愛をテーマにした歌はもちろん多く存在します。ただ、頻出する名詞の推移を見ると、2000年代以降のヒット曲では1980~90年代の歌詞に頻繁に登場した「恋」や「愛」「男」「女」といったストレートに恋愛や性を想起する言葉は軒並み頻出名詞のランキングで順位を落としています。

ちなみに動詞の分析でも、「抱く」「抱きしめる」といった言葉が減少しています。恋愛を歌うにしても、以前より婉曲的な表現が用いられるようになった、ということなのです。

男性も女性も一人称に「僕」を使う傾向に

「性」という点でもう一つ面白い傾向が代名詞の分析で明らかになりました。こちらのグラフ(図表2)は、歌詞に含まれる一人称、二人称代名詞を年ごとに曲数で集計し、推移を波形にしたものです。

【図表】<私―あなた><俺―お前>から<僕―君>の時代へ

一人称、二人称代名詞の年次推移をみると、連動して動くペアがみえてきます。まず、ピンク色の「私」と「あなた」、次に緑色の「僕」と「君」、そして、グラフ下部で推移している青色の「俺」と「お前」です。

1980~90年代初頭までは「私」と「あなた」のペアが最も使われていましたが、1990年代後半になると「僕」と「君」のペアがトップの座を奪ったことがわかります。

「僕」という言葉は男性が使う一人称というイメージがありますが、実際に歌詞とアーティストをみてみると、男性アーティストだけでなく女性アーティストでも「僕」が使われていました。

図表2で「僕」「君」が増加し始める1990年代後半~2000年代にそれらの代名詞を使っていたのは宇多田ヒカルさん、浜崎あゆみさんなどでした。

その後2000年代後半~10年代にはAKB48さんや、乃木坂46さんなどの坂道グループの曲でも「僕」「君」がよく使われています。最近ではあいみょんさんやLiSAさんなどの曲でも「僕」「君」が使われていることは記憶に新しいのではないでしょうか。

ちなみに、「俺」と「お前」のペアは1980年代には近藤真彦さんやチェッカーズさんなど男性アーティストの曲でよく使われていたものの、その後は減少し、今ではほとんど使われていません。

現在、歌詞で使われる代名詞は「君」と「僕」にほぼ集約されていることから、近年のジェンダーレス化の波は、歌詞にも表れてきている、といえそうです。