高齢の物故者が相次ぎ、もはや90歳以上での死亡も“普通”になってきた感がある。今回、平均寿命ではなく、人口動態統計の生データである「死亡年齢」を調査した統計データ分析家の本川裕さんは「男性の死者数ピーク年齢が2000年時は74歳だったが、21年には85歳と、短い間に11歳も延びたことがわかった」という――。

90歳以上での死亡も“普通”になってきた

高齢の物故者が相次いでいる。8月には、稲盛和夫京セラ創立者(90歳)、ゴルバチョフ元ソ連共産党書記長(91歳)が亡くなり、9月には、エリザベス女王(96歳)、仏映画巨匠ゴダール(91歳)が死去した。10月に入るとプロレスラーのアントニオ猪木(79歳)、武村正義元新党さきがけ代表(88歳)が亡くなった。

最近は90歳以上で死亡するのが特別ではないような印象である。そこで、今回は、日本人は何歳ぐらいで死ぬようになったのかを調べてみよう。何歳で何人死んでいるかという公式統計が従来存在しているのにあまり使われていないので、そうしたデータを紹介することにも意義があろう。

日本人の平均寿命は驚異的に伸び、2021年には女性が87歳、男性が81歳と主要先進国の中ではトップの地位にある。

平均寿命は分かりやすいようで、誤解を招きやすいデータでもある。

まず、平均寿命の概念は、実は、寿命が延びていくことは一般には想定されない動植物に適用される「生命表」の概念であり、毎年の年齢別死亡率から仮想計算されたゼロ歳時の平均余命(確率的にあと何年生きるか)のことだというということを理解する必要がある。

2021年に生まれた男の子が実際に何歳まで生きるかは、今後の死亡率が低くなることが予想されることから、2021年の平均寿命である81歳より当然長くなることが見込まれる。

また、例えば、65歳の男どうしが、今後何年生きるかを話し合っているとき、平均寿命が81歳だから、あと16年と考えるのは、もう1つの意味でも間違っている。というのは、65歳の平均余命は男の場合は19.85年であり、そういう意味からは、65歳まで生きた男の平均寿命はいわば85歳だからである。

そこで、ここでは、加工指標である「平均寿命」ではなく、生データである「死亡年齢」から、ヒトは何歳ぐらいで死ぬのかを考えてみよう。

死亡年齢のピークは平均寿命より高い「男85歳女92歳」

図表1は、死亡届を集計した人口動態統計(厚生労働省)から、各歳別の死亡者数のデータをグラフにしたものである。

2021年の死亡ピーク年齢は、男が85歳、女が92歳となっており、それぞれ、その年齢で3万330人、3万4506人が亡くなっている。この死亡ピーク年齢は、男女の平均寿命のそれぞれ81歳、87歳より4~5歳高い年齢になっている。報道される有名人の死亡年齢、あるいは年賀はがき中止を通知する喪中はがきに記載された「享年」などからもこのピーク年齢は実感されていよう。

ちなみに、男女ともに73歳にもう1つのピークがあるのは、この年齢が団塊の世代のピークに当っており、母数が多いので死亡数も多いからである。なお、女性の場合は、その年齢では死亡率が男性に比べまだ高くないのでピークはあまり目立っていない。