※本稿は、池田清彦『専門家の大罪』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
専門家は正しいに違いないという思い込み
世の中に出回る健康法というのはまさに玉石混交で、時には正反対の主張が同時に流行していることさえある。
例えば朝食ひとつとっても、毎朝きちんと取ったほうがいいという説がある一方で、朝食を食べるから不健康になるという説もある。りんごを毎朝食べろという説があるかと思えばバナナのほうがいいという説があったり、もっと肉を食べろとか逆に肉は食べるなとか、何が真っ当な情報かさっぱりわからない。
なぜそんなことが起こるのかというと、食や栄養に関する専門家と称する医師や栄養士によって言うことが違うからだ。これらの人々こそが健康に関する専門家であり、そんな専門家が言っていることなら正しいに違いないという世の中の思い込みが、矛盾するさまざまな健康法を次々と生み出している。
ただ、その手の本をじっくり読んでみると、「○○健康法」というのはさまざまな情報のごく一部だけを過剰に切り取っているケースも少なくない。
「ウソの常識」で不健康になることもある
一般大衆に向けた情報は、わかりやすいに越したことはないため、マスコミは「カリウムにはナトリウムを排出する効果がある」という話を、「バナナをたくさん食べれば血圧は下がる」といった単純な話にして伝える。確かにバナナにはカリウムが多く含まれているからまったくデタラメではないけれど、結局これも、専門家の意見の中でセンセーショナルにあおることができそうな部分だけを、都合よくつまみ食いしているパターンである。
とはいえ、食べるものをちょっと変えたくらいで、健康にたいした影響はないので気になるなら試してみればいいというだけの話だ。バナナに毒があるわけじゃないし、まあこの程度の話なら、別に目くじらを立てる必要はない。バナナが血圧を下げるというのは一種のおまじないみたいなもので、実害があるというわけではないからね。
問題はむしろ、大多数の専門家が声をそろえて発する、正しそうに見える「医学常識」や「健康常識」のほうにある。なぜならそこには、専門家にとって都合のいい「ウソの常識」もたくさん含まれており、それを正しいと思い込まされたせいで、健康になるどころか、かえって不健康になることもあるからだ。