「高齢死社会」の到来
こうして、高齢層の死亡については、ピーク年齢自体が70代前半から80代後半へと高齢化するとともに、ピーク年齢前後にますます死亡が集中してきている。今や、80代後半前後に亡くなるのが当り前の世の中となったのである。すなわち、「高齢死」と「高齢死への集中」の時代が訪れているのである。
最近、時代の変化を表す用語として、死亡数が多い社会という意味の「多死社会」という言葉が使われるようになったが、「多死社会」というより、むしろ、「高齢死社会」が新時代の特徴として浮かび上がっていると言える。
かつては、赤ん坊の時から何回も訪れる人生の危機を、その度、乗り越えることができた者、そしてどんどん少数になる者だけが老人となった。今では、ほとんど誰でもが老人になり、しかも、だいたい予測される年齢に死ぬ者が大半となる状況となった。
こうした状況は、食料供給、保健衛生、医学、平和、治安、労災対策、安全な生活環境、社会保険(雇用保険、医療保険、介護保険、年金保険)などの総合効果によるものであり、一言でいえば人類が目指してきた福祉社会がほぼ実現してきたためであることは言うまでもなかろう。
生まれたばかりの子どもを失うことはほとんどなくなり、また、飢えて死んだり、戦争や震災で死んだり、けんかなどで他人に殺されたり、酒の飲みすぎや伝染病、食中毒で死んだり、仕事で無理して死んだり、病気が治らずに死んだりすることが少なくなり、さらに、生活環境の管理がすみずみまでいきわたり、遊泳中におぼれたりなど偶発的な事故で死ぬことも非常に少なくなった。