安倍元首相銃撃事件以降、自民党と旧統一教会との関係が次々に明るみに出ている。統計データ分析家の本川裕さんは「カルト的な宗教集団や政治と宗教の問題が世界各国で関心を集めている。国際意識調査で、日本は海外諸国より旧統一教会を含むカルト宗教にかなり寛容であることがわかった」という――。

統計が証明「日本人が旧統一教会をのさばらせた」

安倍晋三元首相の銃撃事件は、犯人の統一教会(注)に対する個人的な恨みがその背景にあったことが明らかになったことで、統一教会の存在や霊感商法による被害がにわかにクローズアップされている。

(注)正式には世界基督教統一神霊協会。2015年に名称を世界平和統一家庭連合に変更。本稿では旧をつけない統一教会と表現。

また政治と宗教の問題も関心を呼んでいる。統一教会とその政治組織である国際勝共連合と自民党の関係は古く、今でも多くの自民党議員が、選挙などで統一教会の支援を受けていたことが明らかになっている。今回安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者も、統一教会系の団体の集会に安倍氏がビデオメッセージを寄せていたことを知り、教団に対する怒りの矛先を安倍氏に向けることになったと供述しているという。

カルト的な宗教集団や政治と宗教の問題は、世界各国で関心を集めており、国際意識調査でもこの点が調査されているが、あまり日本の言論界には紹介されていないようだ。そこで、今回は、こうした問題に対して海外諸国と比較して日本人がかなり寛容である点を示す国際比較データを概観するとともに、その背景となっている日本人の特殊な宗教意識とその最近の動向を探ってみよう。

2018年の宗教をテーマとするISSP調査(注)の結果から、カルト教団に対する許容度を調べた設問の回答を国際比較したグラフを図表1に掲げた。

(注)1984年に発足した国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)は約40の国と地域の研究機関が毎年、共通の調査票を使って世論調査を実施している。「政府の役割」「宗教」「社会的不平等」など同じテーマの調査を10年毎に実施するのが特徴で、国同士の比較とともに過去の結果と比較する時系列変化の把握も目的としている。各国とも原則18歳以上の全国の住民を母集団とし、無作為抽出による1400人程度、最低1000人のサンプルで調査を行っている。

ここでは過激な主張を行う宗教集団をカルト教団と見なし、そうした集団の意見表明に関する集会開催や情報発信が許されるかどうかという設問への回答を調査に参加した33カ国について許容度の低い順に並べた結果を示している。

ただし、献金や過激な行動を促す集会開催や情報発信ではなく、意見(設問文では「自分たちの考え方」)の表明に関する集会開催や情報発信に限定して聞いている点には留意が必要だ(もし献金や過激な行動を促す目的ならば許容度はもっと低くなろう)。

許容度の範囲は、各国で20%以下から60~70%までと大きな差がある。主要先進国(G7諸国)については、フランスやドイツでは、そうした集団の集会や情報発信は意見表明の目的だとしても許容度は2割以下と低くなっている。実際にカルト教団の弊害が大きいかどうかという事情に加えて、言論の自由にも限度があるという国民の考え方が反映している結果と言えよう。

他方、主要先進国の中では米国の許容度が高いのが目立っている。集会開催は55.4%、情報発信は62.2%が「許される」としており、33カ国中、前者は3位、後者は1位の高さとなっている。カルト教団の弊害は米国で大きいと考えられるので、やはりこの許容度の高さは言論の自由に対する米国人の見方を示すものであろう。

英国、イタリア、日本といったその他の主要先進国の許容度は、フランス、ドイツと米国の中間に位置している。日本は、その中でも、米国に近く、世界の中でもカルト教団に寛容なグループに属しているといえよう。

日本の場合は米国とは異なって言論の自由への強い信奉が理由となっているとは必ずしも考えられないが、理由はともかく、米国同様、こうした寛容性が、オウム真理教や統一教会といったカルト的な教団の活動をのさばらせてきたひとつの要因となっていることは確かだと思われる。