家計の消費支出に占める食費の割合=エンゲル係数が高い地域はどこなのか。各都道府県のエンゲル係数と所得水準の相関と合わせて調べた統計データ分析家の本川裕さんは「東京や大阪など大都市圏は特に食へのこだわりが強く、所得水準の割に食費をかけている。そして、こうした“食い倒れ”エリアの共通点は、米や麺ではなくパンを好むことだ」という――。

世界中でエンゲル係数は反転上昇の動き

エンゲル係数とは家計の消費支出に占める食費の割合のことである。

2020~21年にはコロナ禍でレジャーや旅行などの外出消費が控えられため、また直近では、食料価格が高騰してエンゲル係数が上昇した点に関心が集まっているが、少し前は貧窮世帯の増加の表れとしてそれがさかんに取り上げられた。

今回は、一時期、日本が貧乏国に転落しつつあることの証拠と見なされていたエンゲル係数の上昇が本当にそういうことを意味しているのか、また、食へのこだわりが大きいためにエンゲル係数が通常より高くなっている地域がないか、分析をしてみよう。

日本において経済成長とともに戦後を通じ長らく低下し続けていたエンゲル係数が、2005年ごろを境に、反転上昇していることが明らかになった時、日本のメディアや有識者は、政府が改善に向け真剣に取り組まないため顕在化した格差拡大のせいだと何の疑問もなく報じたり論じたりした。

私は、日本の動きだけが取り上げられ、エンゲル係数の動きについて国際比較したデータがなぜ参照されないのかが不思議でならなかった。世界共通の現象なら、わが国の局所的な社会現象の観点からではなく、もっと広い視野からそれが示す課題を明らかにできるはずだからである。

そうした気持ちから、その時作成し、さらに現時点で更新した統計グラフを図表1(※)に掲げた。

(※)わが国以外では家計調査は本格的・継続的に行われてはおらず、行われているとしても基準が同一とは限らないため、諸外国の家計調査は使えない。そこで、作成基準が統一されているGDP統計(SNA)の国内最終家計消費の内訳から算出したエンゲル係数で各国の動きを比較した。