21世紀にもなって隣国に軍事的に攻め込むロシアとはいったいどんな国なのか。プーチンの暴走を許す国民はどんな人々なのか。統計データ分析家の本川裕さんは「ロシアの人口ピラミッドの形や異様なほど短い平均寿命の背景には常に死と隣り合わせの歴史と国情がある」という――。

くびれやギザギザが語るロシア人の歴史的経験

ある国の国情を理解するためには男女・年齢別の人口を表した人口ピラミッドをチェックするのがもっとも手っ取り早い方法である。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻がはじまって、21世紀にもなって隣国に軍事的に攻め込むロシアという国は一体どんな国なのかという疑問が高まっている。プーチン大統領という独裁者の思い込みによる暴走が原因なのか。そうでなければ、これはもうロシアの国情に理由を求めるしかない。

今回は、ロシアの人口ピラミッドとその独自なかたちを生んだ過去の経緯を振り返り、国情判断の一助としたい。

人口ピラミッドは5歳階級ごとの人口で表される場合が多いが、ここでは各歳別の人口ピラミッドが一橋大学のサイトから得られたので、特異点の理由についての吹き出しを付加して図表1に掲げた。参考に、最新の国勢調査の結果から日本の各歳別の人口ピラミッドを同時に示した。

ロシアと日本を比べると、くびれやギザギザの程度がロシアで非常に大きいことが目立っている。

日本の人口ピラミッドは、戦争によって人口の損耗や出生減がたびたび起こっていた戦前日本の状況を反映して、70代以上では人口が急減するくびれが目立っていたが、終戦前後の落ち込み以降は、戦後の反動によるベビーブームのうねりが1次、2次と起こった点が人口構成の基調となった。各歳別のギザギザは、“丙午(ひのえうま)”=火災が多く、この年生まれの女性は気性が強く、夫を食い殺すという俗信がある=にあたる1966年の出生減を除くと見られず、きわめて滑らかな推移となっている。戦後は平和な時代が続いていることを示しているのである。

ロシアについては、1933~34年生まれの年齢について、スターリンによるジェノサイド(ある人種・民族を、計画的に絶滅させようとする行為。集団殺戮)とも位置付けられる農業集団化による1932~33年の飢饉ききんが、なお、人口ピラミッド上に認められるが、それ以降も、日本より大きな第2次世界大戦時のくびれや1997~2001年生まれの年齢についてのソ連崩壊後の体制移行混乱期の出生率低下によるくびれなど、一見して異常にも思える起伏が目立っている。

図表1に付した吹き出しでも明らかなように、歴史的事件による人口の損耗だけでなく、それを何とか回復させようとした出産奨励や子育て支援の政策的努力によっても年齢によるくびれの振幅が大きくなっている。

ロシアの国民はきわめて数奇な歴史的な経験を経てきていることが人口ピラミッドからうかがわれるのである。