ロシアによるウクライナ侵攻がやむ気配はない。プーチン大統領は欧米や日本などによる経済制裁を受け、核使用をもちらつかせる。統計データ分析家の本川裕さんは「ソ連崩壊後、ロシアとウクライナは共通した歴史体験をし、似た価値観や国民意識を持っていた。2014年以降、ロシアはEUへの対抗意識を強める一方、ウクライナはEUへと傾斜。兄弟国の衝突の背景にはウクライナを焚き付けたEUの存在がある」という――。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻

ウクライナは2022年2月24日からプーチン・ロシア大統領の命令により、ロシア軍の軍事侵攻を受けている。各地で激しい戦闘が行われ、市民を含む多くの犠牲者が出ている。これに対し、世界各国や世界中の市民からの非難が相次ぎ、ロシアへの厳しい経済制裁もはじまっている。

プーチン大統領は侵攻前、ウクライナ東部のドンバス地域にあるドネツク、ルガンスク2州で親ロシア派武装勢力が実効支配する地域を「独立国家」として承認し、2つの「国家」のトップと「友好相互援助条約」を結んだ。

プーチン大統領は、侵攻を開始した24日、国民向けのテレビ演説で、独立を承認したウクライナ東部二州の代表者から軍事支援を要請されたと説明。ウクライナへの軍事作戦は「ウクライナを武装解除し、ロシア系住民などを抑圧した人物を裁く」ためだと語った。

プーチン大統領の「暴挙」の背景にあるのは、現在の国際秩序の基本となっている欧米を中心とするリベラルな価値観こそがロシアの精神的な基盤を破壊するというロシア内強硬派(チェキスト)の危機感であるとされる。プーチン大統領はウクライナを兄弟国と呼び、昨年7月に発表した論文では「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能だ」と結論づけているという(東京新聞2022年2月25日3面)。

一方、ウクライナのほうでは、欧米と一体化していきたいという期待があり、EU欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2月27日報道のインタビューで「ウクライナはわれわれの一員。加入してほしい」と述べたのを受けてウクライナのゼレンスキー大統領は28日、ウクライナのEU(欧州連合)加盟を申請する文書に署名。「新たな特別手続きによる即時承認」を求めた。なお、後日、フォン・デア・ライエン委員長の発言はEUへの加入ではなく欧州への参加を誘ったものにすぎないと訂正された。

こうしたロシアとウクライナのEUに対する姿勢は、図表1に示した両国民の対EU観の差にも表れている。

以前は、ロシア、ウクライナの国民は、EUの中心メンバーであるドイツやフランスの国民と同様にEUを肯定的にとらえていた。ところが、2014年以降は、ロシア国民はEUに幻滅し、一方、ウクライナ国民はドイツやフランス以上にEUを肯定的に評価するようになっているのである。

それでは、ロシアとウクライナは、それぞれ反対方向を向く、とても兄弟国とは言えない状況になっているのであろうか。

今回の記事では、以下2点について述べていきたい。

・EUとウクライナは相思相愛に見えてそうではなく、実際は、ロシアとウクライナのほうが、それぞれの国民が同じ国民性を有し、向かっている世界観の方向も同じであること。

・冷戦崩壊後の苦難の経験を共有する兄弟国であるにもかかわらず、今回のウクライナへの侵攻の背景にあるのは、EUやヨーロッパへの見方が正反対になってしまったことから生じた悲劇である。