子どもに身につけさせたい徳目のトップが「勤勉」の両国民

世界各国の研究機関が共通の調査票で行っている「世界価値観調査」は各国の国民性をデータで理解することに役立つ貴重なデータである。この調査では、毎回、子どもに身につけさせたい徳目の問を設けていて、私は、この設問の結果が世界の各文化圏の国民性の特徴を不思議なほど明瞭に表していると考えている。

図表2には、ヨーロッパを代表させてフランスとドイツ、旧ソ連のスラブ圏からロシア、ベラルーシ、ウクライナの結果を掲げ、両者の中間的位置の国としてエストニア、また、まったく異なる文化圏である日本の結果を参考として併載した。

親が子について心配するのは、友達と喧嘩したり、いじめに遭ったり、いじめたりして、学業に身が入らぬようになることである。この点は万国共通だろう。しかし、そうならぬように子に何を言い聞かせるかは文化圏によって大きく異なる。ただし、外形標準の徳目ともいうべき「礼儀正しさ」は各国共通であり、文化圏によって差がないので、ここでは除外して考えておこう。

子どもに身につけさせたい徳目

表中には登場しないが、イスラム圏諸国においては、ほぼ決まって「信仰心」が一位に来る。信仰をともにする同士で子どもがお互い仲良くし、正しく学業に励めるようにしようとするからであろう。

西欧諸国を中心とするヨーロッパ圏では、表のフランス、ドイツと同様、「礼儀正しさ」を除くと「寛容性」が首位、「責任感」が次位の場合がほとんどである。

自主性を重んじる国民が多いのもこの地域の特徴である。「自分の言葉・行動に責任をもちなさい」という責任感の教えや「わが道を行きなさい」という自主性の教えの影響下では、自然と自己主張が激しくなり、意見の対立から子ども同士のトラブルが増えるので、「お互い、相手の主張を認め、尊重しあいなさい」という寛容の精神の教えでバランスを取って社会が分裂しないようにしているのであろう。

一方、脇目を振らず自分が頑張るという「勤勉さ」が1位で、2位が「責任感」というグループとしてロシアと旧ソ連諸国が目立っている。

2018年3月のロシア大統領戦で圧勝し、通算4選を果たした頃、プーチン氏は、選挙前に流されたドキュメンタリー番組で「彼らはゲームができないし、強くない」と欧米諸国を見下した。また、アメリカ・ファーストのトランプ米国大統領が国民の分断を助長し、難民問題で揺れる欧州で排外主義のポピュリズムが吹き荒れるのにふれて、「欧米が信じるリベラリズムや多文化主義の理想は『失敗に終わった』と断じた」そうである(東京新聞、2018年3月20日)。

また、プーチン氏は、かつてインタビューの中で自分の身を守るために各種の格闘技を習っていた少年時代に得た3つの教訓として「1.力の強い者だけが勝ち残る。2.何が何でも、勝とうという気持ちが大切。3.最後までとことん闘わねばならない」を披露したという(同日夕刊「筆洗」)。

こうした発言からうかがわれるプーチン氏の価値観には、今回のウクライナ侵攻における態度を予感させるものがあるが、旧ソ連スラブ文化圏で重視される徳目が反映しているとも考えられる。

もっともこの文化圏に住む普通の親としては、単純に、子どもが余計なことにうつつを抜かさずに、学業に専心してほしいという期待から「勤勉さ」の徳目をまず身につけさそうとするのであろう。

いずれにせよ、ウクライナの国民性はヨーロッパ風ではなく、明確にロシアと共通であることがうかがわれよう。