日本、イタリア、フランスのエンゲル係数が上昇

コロナ禍が襲った2020年にレジャーや旅行など外出関連の消費支出が落ち込んだのに食費支出は巣ごもり消費で比較的堅調だったため日本のエンゲル係数は、前年の25.7%から27.5%へと急上昇した。

2020年のデータが得られる国のうち、日本、イタリア、フランス、スウェーデン、米国では同様の動きが見られた(外食費が大きく落ち込んだ英国では20年はむしろ低下したが21年には上昇している)。

2021年に入ると日本はやや低下、フランスは大きく低下し、通常年に向かう動きが見られる。2020~21年の動きはコロナの影響でやや特殊なので、それを除いて、エンゲル係数の動きをたどってみると以下のようにとらえられる。

まず、エンゲル係数の各国の相対レベルは、あまり変わっていない。かねてより、米国が特別低く、日本、イタリア、フランスで高くなっている。スウェーデン、英国、ドイツは、両者の中間のレベルである。

料理や食文化にそれぞれ特徴のある日本、イタリア、フランスで高く、ファストフードの米国で特別低くなっている点が印象的である。料理が名物とされているかのランキングとエンゲル係数の高さがほぼ一致しているのが興味深い。

2009年6月、パリのファーマーズマーケットで売られているバゲット
写真=iStock.com/Stieglitz
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すなわち、先進国だけ取ってみると、エンゲル係数は所得水準の差と言うよりは、各国の国民が食べ物にだけこだわるかの指標の側面が大きいといえよう。この点については後にさらに詳しく触れる。

欧米主要国の動きを見る限り、米国を除いて、反転の時期は異なるが、日本と同様に、下がり続けていたエンゲル係数が最近になって上昇に転じている。明確に反転とは言えない米国も横ばいか微増には転じている。

ただし、反転上昇のカーブについて日本がもっとも鋭角的だとは言えよう。

エンゲル係数の反転上昇の動きがこのように世界共通であるということは、日本のエンゲル係数の上昇が意味するものとして指摘されることが多い生活苦の拡大というよりは、先進国でおこっている共通の社会の構造変化を想定する必要がある。